6-3 プルトニウムを安全に減らす高温ガス炉の実現に向けて

ー模擬燃料核の微細構造の知見の取得ー

図6-6 大洗研究所にある高温工学試験研究炉(HTTR)の燃料 <sup>*</sup><sup>1,</sup> <sup>*</sup><sup>2</sup>

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図6-6 大洗研究所にある高温工学試験研究炉(HTTR)の燃料 *1, *2

被覆燃料粒子は、UO2燃料核を四重に被覆したもので、直径1 mm程度です。燃料コンパクトは、被覆燃料粒子を黒鉛結合材で焼き固めたものです。これを黒鉛スリーブに収め、さらに黒鉛ブロックに挿入します。

 

図6-7 (化学的)不活性母材燃料を用いた被覆燃料粒子の構造と核拡散抵抗性

図6-7 (化学的)不活性母材燃料を用いた被覆燃料粒子の構造と核拡散抵抗性

不活性母材として用いるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)は化学的に安定であり、通常燃料 (MOXなど) と異なり酸やアルカリに難溶で再処理が難しいため、核拡散抵抗性が高いと考えられています。

 

図6-8 Pu燃焼高温ガス炉用模擬燃料核(CeO<sub>2</sub>−YSZ核)の中心部の微細構造 (走査透過型電子顕微鏡明視野像)

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図6-8 Pu燃焼高温ガス炉用模擬燃料核(CeO2−YSZ核)の中心部の微細構造 (走査透過型電子顕微鏡明視野像)

結晶粒の間に空隙がありません。空隙があると、所定スペックの直径を有する燃料核内に、設計上要求される量の核分裂性物質を充填できなくなる可能性があります。
(Taylor & Francis Ltd, http://www.tandfonline.comより許可を得てAihara, J. et al., Influences of the ZrC Coating Process and Heat Treatment on ZrC-coated Kernels used as Fuel in Pu-burner High Temperature Gas-cooled Reactor in Japan, Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.58, 2021, p.107-116. Published online: 23 Aug 2020, Taylor & Francis Ltdより転載)

 


我が国では、利用目的のないプルトニウム(Pu)を保持しないという原則を堅持して原子力利用を進めてきました。この考え方に基づき、原子力委員会は、事業者に対し、原子力発電所の使用済燃料から再利用できるウラン(U)やPuを取り出して生産された燃料(MOX燃料)を時宜を失わずに確実に消費することを要求しています*3。そこで、安全性に優れた高温ガス炉を使って効率的に再処理Puの量を減らすことが可能なPu燃焼高温ガス炉概念が提案されています。

高温ガス炉燃料の最小単位は、直径1 mm程度の被覆燃料粒子(CFP)です。核分裂性物質及び核分裂生成物は各CFPに保持されます。我が国では、UO2の小球である燃料核を四重に被覆したCFPを用いています(図6-6)。Pu燃焼高温ガス炉の概念においては、燃料核として化学的に安定な不活性母材燃料核を採用しています。不活性母材燃料は再処理が難しいため、核拡散抵抗性が高いと考えられるからです(図6-7)。本研究では、燃料核を具体的にはPuO2を含むイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、PuO2-YSZとしました。

本研究では、PuO2-YSZ核製造技術開発を担当した原子燃料工業株式会社が、燃料製造方法の確立に資することを目的として製造した模擬PuO2-YSZ核の検査の一環として、原子力機構が微細構造観察を行いました。

Puの模擬物質として化学的性質が類似するセリウム (Ce)を用いました。Ce、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)各々の硝酸塩の粉末を水に溶かし、アンモニア水の中に滴下してゲル状の粒子を作り、焼結して模擬PuO2-YSZ核(CeO2-YSZ核)を製造しました。

製造したCeO2-YSZ核の中心部の微細構造観察を行い、結晶粒が密に分布していることを確認しました(図6-8)。燃料核の結晶粒間に空隙があると、所定スペックの直径を有する燃料核内に、設計上要求される量の核分裂性物質を充填できなくなる可能性があります。したがって、結晶粒間の空隙の割合があまりに大きい場合、上記の不活性母材燃料核製造方法を見直す必要がありました。よって、本知見より、上記の不活性母材燃料核製造方法が有効に機能する可能性を示すことができました。

本研究は、文部科学省原子力システム研究開発事業「プルトニウム燃焼高温ガス炉を実現するセキュリティ強化型安全燃料開発」の成果の一部です。

(相原 純)


*1 後藤実ほか, 小型高温ガス炉システムの概念設計(Ⅱ)ー核設計ー, JAEA-Technology 2012-017, 2012, 29p.


*2 日本原子力研究開発機構 高温ガス炉研究開発センター, 高温ガス炉とは, https://www.jaea.go.jp/04/o-arai/nhc/jp/faq/index.html (2021年9月16日閲覧).


*3 原子力委員会, 我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方, 平成30年7月31日, http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2018/siryo27/3-2set.pdf (2021年9月16日閲覧).