図8-4 安全審査における国の要求と現状の対応の概要
図8-5 基準線量相当濃度算出に用いた被ばくの想定(シナリオ)
図8-6 トレンチ処分の基準線量相当濃度の評価例
私たちは、原子力機構及び国内の研究施設等から発生する低レベル放射性廃棄物(研究施設等廃棄物)を埋設する事業(トレンチ処分及びピット処分)の実施主体です。埋設事業の安全審査においては、一般公衆が埋設施設から被ばくする想定(シナリオ)に基づく被ばく線量評価(安全評価)によって、国が定める線量基準を満足することを示すとともに、被ばく線量への寄与の大きい核種(重要核種)を選定し、重要核種に対する最大放射能濃度と総放射能量を示す必要があります。また、廃棄物の処理方法や廃棄物の測定・分析方法を検討する際にも、この重要核種を中心として検討がなされるため、埋設事業を円滑に推進する上でも重要核種を具体的に選定することが重要です。図8-4にその概要を示します。
重要核種は、国が定めた基準線量の被ばくをもたらす核種ごとの放射能濃度(基準線量相当濃度)と埋設する廃棄物に含まれる核種の放射能濃度から求める比の大きい核種から選定します。基準線量相当濃度の値が低い核種は、廃棄物に含まれる放射能濃度が低くても被ばく線量が高くなることとなり、重要核種となる可能性が高くなります。これまでは、基準線量相当濃度として、埋設処分における放射能濃度の法規上の上限値を決める際の根拠となった値(旧原子力安全委員会の値)を使ってきました。現在、埋設施設の立地場所の選定が進行中であり、事業者としては様々な立地環境を想定しておく必要があります。このため将来の様々な立地環境を考慮した「シナリオ」(図8-5)を設定して基準線量相当濃度を算出し、安全評価に与える影響を検討しました。
代表的な核種に対する基準線量相当濃度について、トレンチ処分の例を図8-6に示します。河川水利用のシナリオでは、被ばく線量が高くなる立地環境条件(生活圏が近く、短い移行距離等)を想定したため、従来、最小値であったC-14の値がさらに低くなることが分かりました。また、様々な立地環境を考慮したシナリオ(灌漑水利用、河川岸利用)を用いたことで、被ばくに寄与する割合が高い新たな核種(Cl-36等)のあることが分かりました。
今回の成果から、幅広い立地環境に基づいた基準線量相当濃度を用いることで、実際の立地場所を反映した安全評価により選定される可能性の高い核種を幅広く選定できることから、安全審査に向けた信頼性が向上すると考えます。
(菅谷 敏克)