8-2 固体吸着材による廃抽出溶媒からの核燃料物質の回収

ー模擬廃抽出溶媒におけるイミノ二酢酸基の錯形成反応の調査ー

図8-7 イミノ二酢酸基の構造図

図8-7 イミノ二酢酸基の構造図

 

図8-8 模擬廃抽出溶媒から吸着処理したZrのPIXE画像

図8-8 模擬廃抽出溶媒から吸着処理したZrのPIXE画像

 

図8-9 吸着材のZrの検出強度(マイクロPIXE分析)

拡大図 (161kB)

図8-9 吸着材のZrの検出強度(マイクロPIXE分析)

縦軸はZrの検出強度、横軸は上部から下部方向の距離を示しています。吸着処理直後(1 min)よりZrが吸着材全体に分布しており、速やかに吸着している様子が観察されました。

 

表8-1 Zrに近接する原子の種類と距離(EXAFS分析)

硝酸溶液で吸着処理した試料はイミノ二酢酸に由来するOと、ZrO(NO3)2と錯体を形成し、模擬廃抽出溶媒で吸着処理した試料は、硝酸基は存在せず、イミノ二酢酸に由来するOとZrO2+の化学形態で錯形成していると予想されます。

表8-1 Zrに近接する原子の種類と距離(EXAFS分析)

 


老朽化した原子力施設の廃止措置が進められています。廃止措置の完遂には、核燃料物質やそれらの廃棄物を化学的に安定な状態に処理することが不可欠です。本研究では、実験室規模の再処理試験で発生した抽出溶媒の廃液を対象としました。PUREXプロセスを対象とした再処理試験ではリン酸トリブチル(TBP)を用いますが、試験、分析で発生する廃抽出溶媒の廃液中には、核燃料物質のウラン(U)やプルトニウム(Pu)を微量に含有しているものもあります。抽出溶媒は抽出した核燃料物質の放射線により分解し、その結果、水素やニトロ化合物等の爆発性物質が発生、蓄積する危険性があり、速やかな安定化処理が必要です。廃抽出溶媒中の核燃料物質の回収方法として、炭酸ナトリウム溶液等による逆抽出法が一般的ですが、大量のアルカリ系廃液の発生が課題です。そこで、元素の吸着と溶離が可能である固体吸着材に着目し、廃抽出溶媒中でも直接吸着反応を示す固体吸着材を見出すことで、廃抽出溶媒処理法として確立できると考えました。

本研究ではイミノ二酢酸型の市販吸着材を使用し、溶媒中における錯形成反応について調査を進めました。図8-7にイミノ二酢酸基の構造を示します。まず、TBPの劣化成分の代表としてリン酸ジブチル(DBP)を含む溶媒に模擬核燃料物質としてZr(Ⅳ)(Pu(Ⅳ)の模擬)を装荷した溶媒を調製し、CR11キレート樹脂(三菱ケミカル社製)を一定時間模擬廃抽出溶媒に浸漬させました。また、イミノ二酢酸基のZrとの結合状態を比較するために、Zrを溶解した硝酸溶液に浸漬させた試料も調製しました。各吸着材のZrの吸着状況をマイクロPIXE分析、Zrとの化学結合状態をEXAFS分析により明らかにしました。

図8-8にマイクロPIXE分析による吸着材に吸着したZrの分布状況を、図8-9に垂直方向におけるZrの強度を示します。1分間の吸着時間でも、吸着材内部にまでZrが分布しています。吸着材全体のイミノ二酢酸基が有効に利用されていると推察されます。表8-1にEXAFS分析による吸着したZrの原子の種類と距離に関する分析結果を示します。イミノ二酢酸基とZrは、硝酸溶液中ではZrO(NO3)2、模擬廃抽出溶媒中ではZrO2+と、異なる化学形態でイミノ二酢酸と錯形成することが示唆される結果を得ました。イミノ二酢酸基は模擬廃抽出溶媒中の金属と直接錯形成することを明らかにし、さらに、短時間で吸着反応が進行すると示唆する結果を得たことから、廃抽出溶媒処理に適用可能であると考えられる結果を得ました。これらの結果を手掛かりに、吸着容量の向上を目指した新規吸着材の合成や吸着元素の回収に関する調査に着手する予定です。

本研究のマイクロPIXE分析は、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)、EXAFS分析はあいちシンクロトロン光センターのBL11S2にて行いました。

(荒井 陽一)