8-3 難処理廃棄物を安定な廃棄体にする

ーバイヤー法を用いた放射性アルミニウム廃棄物処理技術の検討ー

図8-10 バイヤー法を応用した基本的な処理フロー図

図8-10 バイヤー法を応用した基本的な処理フロー図

①Alをアルカリ溶液で溶解します。②アルカリ溶液に溶解しない残渣をろ過によって除去します。③薄い塩酸を添加し(中和)、水酸化物を生成させます。④水酸化物を乾燥させ、焼成しやすいように粉砕します。⑤電気炉を用いて焼成し、安定なアルミナに変換します。

 

図8-11 1000 ℃にて焼成した試料のX線回折スペクトル

拡大図 (110kB)

図8-11 1000 ℃にて焼成した試料のX線回折スペクトル

1000 ℃で焼成した試料はX線回折により、α、β、γの結晶構造が異なる3種類のアルミナであることを確認しました。

 

表8-2 各工程で発生する試料の放射能割合の推移

照射したAl合金を用いて、図8-10の工程で発生する試料中に含まれる全放射能を100に規格化し、各工程での放射能の割合を算出しました。99%以上が不溶残渣に含まれていることが分かりました。

表8-2 各工程で発生する試料の放射能割合の推移

 


原子力施設で発生した固形の放射性廃棄物は、一般にコンクリートで固めて廃棄体にして処分しています。材料試験炉(JMTR)をはじめとする研究用原子炉では、炉内の構造材としてアルミニウム(Al)やその合金が多く使用されていますが、コンクリートと反応し水素ガスを発生する性質があるため、廃棄体の健全性に影響を与える問題があります。そこで、Alをコンクリートと反応しない物質へと変換し、安定な廃棄体にする技術の検討を行いました。

Alの化合物の中からコンクリートと反応して水素ガスを発生せず、コンクリートの速乾材として利用されている酸化アルミニウム(アルミナ)に着目しました。アルミナに変換する技術は、工業製造法として用いられているバイヤー法を応用することにしました。一方、JMTRの炉内で長期間使用したAl合金はAlよりも半減期の長い核種の生成も多くなり、Al合金の放射能を大きくしています。本法では、強アルカリである水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液等を用いてAlを溶解させ、Al合金中に含まれる添加元素や不純物元素を除去する特徴も有しているものとしました。これにより、添加元素や不純物元素の放射化により生成される半減期の長い核種を除去できればAl成分の廃棄物の放射能量を下げることも期待できます。

本法の基本的処理フローを図8-10に示します。焼成後の試料について、X線回折による結晶構造解析を行ったところ、図8-11に示す通り、異なる3種類のアルミナであることを観測しました。これら異なったアルミナの特性は、α -アルミナやγ -アルミナは純度の高い安定なもの、β -アルミナはナトリウム(Na)を含んだものであり、これらのアルミナは、コンクリートと反応性が低いことを確認しました。

また、京都大学研究用原子炉で照射したAl合金を用いて、本法の各工程で発生する試料中の放射能測定を行いました。この結果を表8-2に示します。Al合金中に含まれるCrやFeの放射化により生成する核種の99%以上を不溶残渣除去工程で取り除くことができ、焼成で生成する最終的なアルミナの放射能量を低減できることを実証しました。

これより、放射性アルミニウム廃棄物を安定な廃棄体にする技術として有効であり、さらにAl廃棄物の放射能量を低減できる廃棄物処理方法を確立することができました。今後、実用化に向け、作製したアルミナとコンクリートへの混錬等による特性の検討を進め、廃棄体への適用性の検討を進めていく予定です。

本研究は京都大学複合原子力科学研究所の共同利用で得られた成果を含みます。

(関 美沙紀)