8-4 プルトニウム取扱施設の安全性向上に向けて

ーグローブボックス窓板用火災対策シートの開発ー

図8-12 火災損傷防止対策の概略図

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図8-12 火災損傷防止対策の概略図

(a)Pu3の代表的なGBの構成 : 受払搬送設備(約10 m×1 m×1 m)1基 設備GB(約3 m×3 m×1 m)2基を示します。(b)各GBのアクリル窓板に本件で開発した火災対策シート(c)を貼り付ける対策を実施しました。

 

図8-13 UL94規格5 V相当の燃焼試験

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図8-13 UL94規格5 V相当の燃焼試験

(a)水平固定した試料に下方から炎高さ125 mmのバーナーで断続接炎します。
(b)バーナー離炎後最大1秒で自己消火し、損傷範囲は最大63 mmでした。
(c)バーナー離炎後最大1秒で自己消火し、損傷範囲は最大73 mmでした。

 

図8-14 強制燃焼試験

図8-14 強制燃焼試験

垂直固定した試料に対し、炎高さ125 mmのバーナーで側方から連続90秒間接炎します。PC板単体はバーナー離炎後最大7秒で自己消火、本シート貼り付けAC板はバーナー離炎後最大1秒で自己消火しました。

 

図8-15 火災試験

図8-15 火災試験

試料にほとんど密着させた状態で燃焼させ、PC板単体及び本シート貼り付けAC板は着火しませんでした。

 


プルトニウム燃料第三開発室(Pu3)は、高速炉用MOX燃料の製造施設であり、プルトニウムを取り扱う大型のグローブボックス(GB)を多数設置しています。GBを構成する窓板には、過去の火災試験等で安全性を確認してアクリル(AC)製樹脂(可燃性)を採用していますが、万一の工程室内火災による延焼防止の観点から、直接的な火災対策が課題でした。Pu3では、新規制基準施行(2013年12月)以降に新たに設置するGBの窓板には難燃性のポリカーボネート(PC)製樹脂を用いることにしていますが、既設GBのAC窓板(約2300枚)を難燃性PC板に交換することは、汚染リスク、コスト及び作業期間の観点から非現実的でした。そのため、放射線環境下で劣化せず、火災損傷防止効果があるPC製の火災対策シート(以下、本シート)を開発し、AC窓板に貼り付ける対策を考案しました(図8-12)。

開発に際しては、既設AC窓板と同じ厚さのAC板10 mmに火災対策シートを貼り付けた試料(以下、本試料)と同厚のPC板単体を用いて比較評価する燃焼試験及び使用環境(ガンマ線、紫外線)影響確認試験を実施して実効性を確認しました。本シートには、高分子材料の燃焼性試験で広く用いられている米国UL94規格において最も高い難燃性V-0を有する透明なPC製の難燃シート(厚さ0.38 mm)を選定し、AC窓板に貼り付けるための粘着材は、施工性、交換時の取り外し性を考慮した特殊なものを採用しました。

燃焼試験は、各試料を水平固定して下方からバーナーにて断続的に5秒間の接炎を5回繰り返す(UL94規格5V相当)試験(図8-13)を行い、本試料がPC板に相当する自己消火性を有する火災損傷防止効果があることを確認しました。さらに、過酷な条件でかつ窓板の設置状態に近似させ、垂直固定した本試料に連続的に接炎する強制燃焼試験(図8-14)、工程室内火災を想定しペーパータオル1500 gの総発熱量に相当するエタノール(質量濃度62%、総重量1500 g)を用いた火災試験(図8-15)を行い、いずれの試験結果においてもPC板単体と比較して遜色のないことを確認しました。

また、使用環境影響確認試験においては、GB内の核燃料物質からのガンマ線5~60年の加速照射及び窓板近傍に設置された蛍光灯からの紫外線10~20年の加速照射を行い、難燃性、視認性等に変化がないことを確認しました。

これらの試験結果から、本シートを既設GBのAC窓板に貼り付けることで、PC板相当の自己消火性を有し、火災損傷防止効果が期待できるとともに、実際の放射線環境下でも適用できる見通しを得ることができました。

現在、本シートは、Pu3既設GBの窓板に貼り付けが完了し、運用されています。本開発は、原子力施設はもちろんのこと、化学・薬品産業のGBのAC窓板、その他AC板を用いている所での火災損傷防止対策、またAC板の表面保護対策として広く適用されることが期待できます。

(川﨑 浩平)