8-5 坑道掘削で生じた割れ目を直接見る

ー樹脂注入による掘削損傷領域の割れ目の可視化技術ー

図8-16 樹脂注入試験の実施位置

図8-16 樹脂注入試験の実施位置

幌延深地層研究センターの深度350 m調査坑道のうち、試験坑道3を対象として実施しました。

 

図8-17 樹脂注入試験装置(上)とパッカー装置(下)

図8-17 樹脂注入試験装置(上)とパッカー装置(下)

樹脂は、圧力容器を介してシリンジポンプにより一定の圧力で注入しました。

 

図8-18 割れ目への樹脂の固着状況

拡大図 (104kB)

図8-18 割れ目への樹脂の固着状況

可視光(a)及び紫外線照射下(b)でのオーバーコアリング試料の観察写真です。割れ目((a)と(b)の赤色矢印)に、注入した樹脂が固着している((b)の青光した部分)ことが分かりました。これらの割れ目は、樹脂注入孔のコア観察結果から、EDZ割れ目であることが確認されています。

 

図8-19 割れ目の開口幅と樹脂注入孔の孔口からの距離との関係

図8-19 割れ目の開口幅と樹脂注入孔の孔口からの距離との関係

壁面周辺(孔口から約0.3 m)は、開口幅が大きな割れ目が発達しているとともに、割れ目発達頻度も高いことが分かりました。

 


高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分場の建設に際しては、立坑やアクセス坑道、処分坑道などの掘削に伴い、周辺岩盤に掘削損傷領域(Excavation Damaged Zone: EDZ)が形成されます。EDZ内部では、新たな割れ目(EDZ割れ目)の形成などにより岩盤の透水性が増加することから、廃棄体埋設後の放射性核種の選択的な移行経路になることが想定されます。そのため、HLWの地層処分の安全評価において、EDZ割れ目の分布や開口幅を定量的に把握することが重要となります。

本研究では、EDZ割れ目を直接可視化して観察することを目的として、樹脂注入試験を実施しました。過去にも、割れ目への樹脂注入による可視化は行われていましたが、使用した樹脂が水の90〜800倍程度の高い粘性を有することから、注入時に割れ目を広げるなどの擾乱が無視できない可能性がありました。そこで、割れ目に擾乱を与えないように、紫外線を照射すると発光する蛍光剤を添加した粘性の低い樹脂(水の7倍程度の粘性)を新たに開発しました。岩盤への注入は、幌延深地層研究センターの深度350 mの試験坑道3(図8-16)において、図8-17に示す装置を用いて注入しました。注入圧は、坑道周辺の間隙水圧と同程度(約0.1 MPa)に設定しました。なお、過去の調査により、EDZが坑道壁面から0.6 m程度の広がりであることが分かっていることから、注入孔の長さは約1.0 mに設定しました。樹脂が固まった後、注入孔を含む領域の岩石試料をオーバーコアリングにより採取しました。図8-18に示す紫外線照射下でのコアの観察写真において赤色矢印で示すように、樹脂が割れ目に固着していることを確認しました。

次に、樹脂注入により固定した割れ目を紫外線照射下で近接撮影し、開口幅を画像上で測定しました。割れ目の開口幅と樹脂注入孔の孔口からの距離との関係を図8-19に示します。図より、孔口から0.3 mまでの範囲では、割れ目の開口幅は最大で1.02 mmであり、発達頻度が高いことが分かりました。一方、孔口から0.3 m以深では、割れ目の開口幅は最大で0.19 mmであり、発達頻度が低いことが分かりました。

今回得られた成果は、EDZ割れ目の開口プロセスの予測や、坑道埋め戻し後に埋め戻し材の膨潤等による割れ目の閉塞を考慮した透水係数の将来予想モデルの構築等、地層処分の安全評価の信頼性向上に資する基礎的なデータとなります。

本研究は、京都大学との共同研究「幌延センターにおける掘削損傷領域の可視化手法の検討」の成果の一部です。

(櫻井 彰孝)