8-6 坑道掘削に伴う不飽和領域形成の影響因子

ー溶存ガス量と岩盤の透水性に着目した解析的検討ー

図8-20 解析領域と計算条件

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図8-20 解析領域と計算条件

(a)立坑を上から見た断面、(b)(a)の緑線を横から見た断面を示しています。

 

図8-21 250 m調査坑道を模擬した解析例

拡大図 (117kB)

図8-21 250 m調査坑道を模擬した解析例

(a)基本ケース、(b)溶存ガス量の初期値を1/10にしたケース、(c)(b)の坑壁からの距離5 mの拡大図を示します。図中の矢印は、50年における値を示しています。飽和度の低下と不飽和領域の広がりに大きな差が見られることが分かります。

 

表8-3 数値解析に用いた代表的なパラメータ例(基本ケース)

浸透率と有効空隙率は、既存の観測結果を用いました。溶存ガス濃度は、初期水圧における飽和ガス濃度を計算しました。

表8-3 数値解析に用いた代表的なパラメータ例(基本ケース)

拡大図 (59kB)

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地下での坑道等の掘削に伴い、坑道壁面近傍に人為的な割れ目を伴う掘削損傷領域(EDZ)が形成されます。EDZでは岩盤の透水性が増加することから、岩盤中の水飽和度の低下と共に坑道内の大気が岩盤に侵入し、地層が有する放射性核種の移行を遅延させる機能に影響を与えることが考えられています。一方で、地下水中に多量の溶存ガスが含まれている場合、岩盤への大気の侵入が見られず、不飽和領域の形成に溶存ガスが影響を与えている可能性が示唆されています。本研究では、不飽和領域の形成に対する影響因子の役割を明らかにすることを目的として、飽和度の低下量と飽和度低下の影響が及ぶ範囲(不飽和領域の広がり)を指標とし、地下水中の溶存ガス量と岩盤の透水性に着目した数値解析を実施しました。

幌延深地層研究センターの坑道を準一次元モデルにより模擬し、地下水と溶存ガスの二相流数値解析を用いた感度解析を実施しました(図8-20)。初期状態では、岩盤は深度に応じた静水圧を持つ地下水で飽和しており、地下水には水圧に応じた量の溶存ガス(メタンと二酸化炭素)が含まれると仮定しました。坑道部が大気に解放されることで、圧力変化による地下水の流れと地下水から遊離した溶存ガスの二相流が生じます。これを数値解析することで、掘削影響による不飽和領域の形成を、最大50年間模擬しました。例として、250 m調査坑道の条件を模擬した基本ケースにおける溶存ガス濃度や岩盤の透水性などのパラメータを表8-3に示します。不飽和領域の形成に対する溶存ガス量と岩盤の透水性の影響を調べるために、基本ケースに対して溶存ガス量が小さいケースや岩盤の浸透率が高いケースを複数設けました。

解析結果の一例を図8-21に示します。基本ケース(図8-21(a))では、飽和度は、坑道壁面近傍のEDZにおいて最も低い値を示し、不飽和領域の広がりは、50年後に約300 mに達しています。岩盤の浸透率などはそのままで溶存ガス量のみを小さくしたケースでは、50年後における飽和度の低下はほとんど見られず、不飽和領域の広がりはEDZ近傍に限られていることが分かります(図8-21(b))。また、溶存ガス量は基本ケースと同じで岩盤の浸透率のみを高くしたケースでは、飽和度の低下量は基本ケースと同程度であるのに対し、不飽和領域の広がりは浸透率に依存して大きくなることが分かりました。

本研究の結果、不飽和領域の形成に対する影響因子として、溶存ガス濃度は、飽和度の低下量と広がりの両方に影響する一方で、岩盤の透水性は、主に不飽和領域の広がりのみに影響することが分かりました。

本結果は、岩盤内部への酸素の侵入を評価する際や、回収可能性を維持した処分場の長期的な安全性へ影響を与える事象の整理等において、有用な知見となります。

(宮川 和也)