8-7 ミクロからマクロへ : 鉱物の年代測定から山地の形成過程に迫る

ー低温領域の熱年代学的手法から見えた奥羽脊梁山地の隆起形態ー

図8-22 岩石の上昇・冷却と熱年代法に基づく温度―時間履歴の推定法

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図8-22 岩石の上昇・冷却と熱年代法に基づく温度―時間履歴の推定法

岩石は地下深部で形成後、隆起・侵食によって徐々に地表に接近し、最終的には地表面に露出します。現在地表で採取した岩石に対して、年代を刻み始める温度(閉鎖温度)の異なる複数の熱年代法を適用すると、各手法の閉鎖温度に対応した年代値が複数点得られます。この年代値をつなぐ曲線は岩石が経験した温度―時間履歴、すなわち冷却履歴に相当します。

 

図8-23 ニつの山地の隆起メカニズムと対応する年代値の空間分布

図8-23 ニつの山地の隆起メカニズムと対応する年代値の空間分布

山地の隆起メカニズムの推定には、山地を横断する方向の年代値の空間的な分布パターンが有用な指標となります。(a) 木曽山脈のようにブロック状に隆起した場合、不安定な地形を持つ両縁が最も侵食されるため、逆断層のある山麓に向かって年代値が若くなります。(b) 奥羽脊梁山地のようなドーム状隆起では、傾斜が大きい中央部が最も侵食されるため、山頂に向かって若くなります。

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分のためには、10万年といった長期間にわたって安定的な地質環境を有する処分サイトの選定が求められます。東濃地科学センターでは地質環境の長期安定性を評価・調査する技術開発を進めており、なかでも隆起・侵食の評価は処分サイトの設計や安全評価に関係し、将来の地殻変動で廃棄体が人類の生活圏に接近する可能性や、地下水流動の解析に対する地形変化の影響を評価する上でも重要です。

その評価手法の一つである熱年代法は、ウランなどの放射性核種が別の元素に変化する現象(放射壊変)に基づいた放射年代測定法の一種で、試料が経験した温度の変化(熱履歴)を調べる分析法です。当センターで実施している熱年代法の例として、フィッション・トラック法や(U-Th)/He法(以下、それぞれFT法、He法)が挙げられます。これらの手法は、アパタイトやジルコンと呼ばれる約0.1 mm程度のミクロな鉱物を対象に、化学成分や結晶構造を分析することで年代を測定します。また、各年代法が年代を刻み始める温度(これを閉鎖温度と呼びます)は理論的・実験的に決められているため、鉱物の年代を求めると、いつ何℃であったか、といった過去の熱履歴を調べることができます(図8-22)。ここで、山地の隆起や侵食といったプロセスは、岩石試料から見ると地下深部の高温から地表付近の低温までの冷却過程に相当します(図8-22)。したがって、得られた年代値が若ければ、対応する熱年代法の閉鎖温度から地表温度までの冷却期間が短いということになり、より最近まで高温の地下にあったと解釈できます。さらに、地下の温度構造を仮定すると、ある地点がどのくらいの速さで地表に上昇してきたのかといった隆起・侵食の歴史を復元することが可能です。これを山地の横断方向に複数地点で実施すれば、数〜数十kmのスケールで山地全体がどのように隆起・侵食してきたかといったマクロの情報を得ることができます。

東北地方の山々は、2011年の東北地方太平洋沖地震に見られるような、太平洋プレートが日本海溝で沈み込む運動によって東西方向の圧縮を受けており、これは約300万年前から現在まで続いているとされます。東北地方の中軸部に位置する奥羽脊梁山地の隆起も、この頃から本格的に開始したと考えられていますが、隆起のメカニズムについては議論が分かれていました。本研究では、従来よりも空間的に密な測定間隔でFT法及びHe法に基づく熱年代学分析を行い、奥羽脊梁山地がドーム状に隆起してきた可能性を提案しました。これは、既に国内で研究されている木曽山脈などの隆起形態と異なることを示しています(図8-23)。その原因として、木曽山脈は、東西の山麓に分布する逆断層の活動が支配的な一方で、奥羽脊梁山地では地下に分布する高温領域の存在が隆起に寄与すると考えられます。今後、このようなドーム状隆起が、同じようなプレートが沈み込む地域で普遍的に起こる現象なのかといった点に注目し、国内の他の山地に加えて、海外の山地でも同様の研究を続ける予定です。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)(No.JP26109003)「異なる時空間スケールにおける日本列島の変形場の解明」の助成を受けたものです。

(福田 将眞、末岡 茂)




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