8-8 地質試料の放射性炭素年代測定に必要な試料量を低減

ー従来法の20分の1となる微少量試料の前処理手法の構築ー

図8-24 微少量での放射性炭素年代測定の分析フローチャート

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図8-24 微少量での放射性炭素年代測定の分析フローチャート

試料前処理手法を最適化し、従来法の20分の1の量となる微少量での放射性炭素測定に成功しました。

 

図8-25 微少量(従来法の20分の1)での放射性炭素測定結果

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図8-25 微少量(従来法の20分の1)での放射性炭素測定結果

(a)は炭素量1 mg、(b)は0.1 mg及び0.05 mgでの測定結果です。微少量での測定結果は既報値と不確かさの範囲内で一致しました。

 


放射性炭素の半減期は約5730年であり、過去5万年間程度の地質試料等の年代測定に適用されています。その手法を放射性炭素年代測定と言い、地球科学等の分野で幅広く用いられている重要な手法です。地層中の有機物、炭酸塩、及び地下水中の溶存無機炭素の放射性炭素年代測定結果をもとに、地層の形成年代や地下水の滞留時間等に関する情報を得ることができます。効率的かつ必要な精度でデータを取得するためには、地層が形成された際の情報を保持している試料の選別が必要です。しかし、採取した全サンプル中から得られる適切な測定対象物(植物片等)の量は限られています。したがって、地質試料の年代測定では微少量での分析を可能にする手法の構築が求められています。

放射性炭素年代測定では、まず洗浄後の試料を燃焼させ、発生した混合ガスから二酸化炭素のみを取り出します。次に水素と鉄触媒を用いて、二酸化炭素を固体であるグラファイトに還元します。得られたグラファイトを加速器質量分析装置で分析します。土岐地球年代学研究所では試料の燃焼を行う元素分析計に自動グラファイト調製装置を接続することで、これまで手作業で実施していた試料燃焼からグラファイト調製までの前処理作業を完全自動化し効率的に分析を進めています。この装置を使った従来法では1 mg以上の炭素が必要となっていましたが、本研究では独自にグラファイト調製時の分析条件を最適化し、炭素量1 mg以下の微少量でも年代測定結果を得られる試料前処理手法を検討しました(図8-24)。

本研究では、国際標準試料等を用いて炭素量0.1 mg、及び炭素量0.05 mgでの試験測定を実施しました。特に、装置内部で使用する鉄触媒の添加量を調整することにより、グラファイトの収率が改善されたことで微少量の試料前処理を行うことができました。炭素量0.1 mg及び0.05 mgでの測定結果は既報値と不確かさの範囲内で一致しました(図8-25)。これは従来法の20分の1の炭素量で年代測定ができることを示しています。また、微少量で年代測定を実施する際に重要となる分析作業時の炭素汚染評価を行い、試料燃焼時に使用する銀製の容器、及び装置内を適宜洗浄することで、分析時に混入する炭素(バックグラウンド)の低減も同時に行うことができました。今後は、バックグラウンドの補正手法の構築を進め、さらに少量である炭素量0.05 mg以下での測定を検討しています。

本研究は経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成28〜30年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(沿岸部処分システム高度化開発)」の成果の一部です。

(渡邊 隆広)