4-1 低コスト可搬型核物質検知装置の開発

−新しい非破壊核物質検知技術の原理実証実験に成功−

図4-2 (a) 新たな検出装置による測定の概要、(b) 開発した回転照射装置、(c) 回転照射装置内の円盤部及び放射線源

図4-2 (a) 新たな検出装置による測定の概要、(b) 開発した回転照射装置、(c) 回転照射装置内の円盤部及び放射線源

測定時は回転照射装置の横に測定対象物を配置し、測定対象物を挟むように放射線検出器を配置します。

 

図4-3 回転照射装置による核物質検知の原理

図4-3 回転照射装置による核物質検知の原理

高速回転時に核分裂中性子だけに“遅れ”が生じることを利用することで核物質を検知することができます。

 


世界的にテロの脅威が高まっており、空港や港湾においても放射性物質に対するセキュリティ検査が実施されています。中でも核物質を用いたテロは社会に甚大な影響を与えるものとして深く憂慮され、核セキュリティ用の核物質検知装置の重要性が増している状況にあります。アクティブ法は有望な核物質検知法の一つであり、検査対象物に放射線を照射して核物質と反応させ、その反応によって出てくる放射線を検出することにより核物質を検知します。この手法は、核物質自身が放出する放射線を測定するパッシブ法に比べて圧倒的な検出感度と正確性を持っている一方で、従来のアクティブ装置は、加速器を用いた放射線発生器が必要となるため、装置自体が高価で大型なものになるという課題がありました。

本研究では、安価で可搬性が高いアクティブ装置の実現を目指し、新たな放射線発生器として測定対象物の近傍で放射線源を高速回転させる回転照射装置を開発しました。開発した回転照射装置(図4-2)は、直径31 cmの円盤を内蔵しており、その外周部に放射線源(カリホルニウム252(252Cf))を取り付けて最大で1分間に3000回転させることができます。その回転照射装置は、従来の放射線発生器(加速器を使用するためコストは約3000万円以上)よりも大幅な低コスト化(約400万円)が図られています。また、寸法は、横幅43 cm、奥行35 cm、高さ57 cmとコンパクトであることから、必要な場所に容易に移動させることが可能です。

一般的に、252Cfから放出された中性子はウラン235(235U)等の核物質と核分裂反応を引き起こし、その反応によってさらに多くの中性子が放出されます。したがって、252Cfから放出された中性子以外の中性子が確認できれば、そこに核物質があるということになります。しかし、ただ単に中性子を照射した場合には放射線源からの中性子と核物質からの中性子を区別できないため、核物質の有無を検知することは困難です。回転照射装置による核物質検知の原理を図4-3に示します。放射線源からの中性子(図4-3(a): )は測定対象物を通り抜けて、そのまま検出器で測定されるのに対し、核分裂反応により放出される中性子(図4-3(a): )は時間的に少し“遅れ“て検出器で測定されます。回転照射装置で放射線源を回転させることにより放射線源と核物質の距離を一定間隔で変化させると、核分裂反応数や核分裂反応により放出される中性子量も回転に同期して変化します。核分裂反応により放出される中性子の“遅れ”は数マイクロ秒程度とわずかであるため、低速で回転させた場合には放射線源からの中性子(照射中性子)と核物質からの中性子(核分裂中性子)の強度は全く同じように変化しているように見えます。一方で、高速で回転させた場合には中性子の強度変化の違いが観測できるようになります(図4-3(b))。このことから核物質がある場合には低速回転と高速回転の測定データに差異が生じ、この差異の有無によって核物質が検知できることを見い出しました。開発した回転照射装置を用いた実証実験を京都大学複合原子力科学研究所において実施し、核物質を検知できることが確認できました。

開発した回転照射装置は、従来のアクティブ装置で用いられる放射線発生器より大幅に安価(1/10程度)・小型であり、放射線源として少量の252Cfを採用することによりRI許認可申請の必要がない表示付認証機器とすることができるというメリットもあります。すなわち、これを用いた新しい核物質非破壊検知装置は従来のアクティブ装置と同等の検知性能を持ちつつ、低コスト化・可搬性向上を図ることができます。このため、空港や港湾など、全国の運輸関連施設等だけでなく、大規模イベントにおける核物質検査等での活用にも適しています。また、核物質検知装置を幅広く普及させることは、それ自体が核テロの抑止に繋がると期待されます。

(米田 政夫)