4-2 核データと粒子輸送計算を繋げる

−多群定数作成機能等を実装したFRENDY第2版の開発−

図4-4 評価済み核データから輸送計算の流れ

図4-4 評価済み核データから輸送計算の流れ

放射線輸送計算コードで核データライブラリを利用するためには、各温度点で断面積の計算などの核データ処理を行い、それぞれの放射線輸送計算コードで利用可能な断面積ファイルと呼ばれる形式に変換する必要があります。

 

図4-5 FRENDYの多群定数作成の計算フロー

図4-5 FRENDYの多群定数作成の計算フロー

FRENDY第2版では、連続エネルギーモンテカルロ計算コードで用いられる断面積ファイル形式であるACEファイルから、多群断面積ファイルを作成する多群定数作成機能を開発しました。

 


放射線輸送計算コードは、原子炉の炉心解析や遮蔽計算、被ばく評価など、様々な場面で利用されています。図4-4のように放射線輸送計算コードは、中性子と原子核の反応確率等の基礎的な物理データを必要としており、これには、評価済み核データライブラリを処理したものを用います。原子力機構では、放射線輸送計算コード(MVPやMARBLE、PHITSなど)や、評価済み核データライブラリ(JENDL)を整備してきましたが、これらを繋ぐ核データ処理システムの開発は長年行われていませんでした。評価済み核データライブラリから放射線輸送計算までの全てのデータ・コードを国産技術で賄うことを目的に、2013年度より核データ処理システムFRENDYの開発を開始し、2019年の3月にオープンソースのソフトウェアとして第1版を公開しました。

核データ処理では、図4-5のように様々なデータ処理を行う必要があります。断面積ファイルは放射線輸送計算コードで異なるため、核データ処理システムの開発には核データライブラリだけでなく、各輸送計算コードに特有の知識も必要となります。このように様々な分野の専門知識が必要となる核データ処理システムの開発は、世界的に見てもほとんど行われていませんでした。FRENDYは日本だけでなく世界的にも注目を集めており、OECD/NEA/Data Bankでの核データ処理システムの一つとして採用されるなど、世界中で広く利用されています。

私たちは、第1版公開後も名古屋大学、北海道大学、(株)グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン等と協力して様々な機能を開発してきました。例えば多群定数作成機能や、確率テーブルの計算精度向上に貢献する確率テーブルの統計誤差計算機能などです。これらの機能の中でも、図4-5に示すメーカー等が開発している多群放射線輸送計算コードで用いる多群断面積ファイルを作成する機能の開発が、特に産業界から強く求められていました。FRENDYの多群定数作成機能の開発については、日本原子力学会の技術賞特賞を受賞するなど、高い評価を受けています。第1版公開後に開発したこれらの機能をまとめ、2022年1月にFRENDY第2版として公開しました。

FRENDYでは、従来の核データ処理システムとは異なり、図4-5に示すように放射線輸送計算の参照解の計算に広く利用されている連続エネルギーモンテカルロコード用の断面積ファイルであるACEファイルから多群断面積ファイルを作成しています。ACEファイルは世界的に広く利用されている断面積形式であり、世界中の機関から公開され、参照計算に利用されています。FRENDYはこれらの既存のACEファイルを起点として多群断面積ファイルを作成することができます。そのため、FRENDYを用いることで、参照計算に利用されているACEファイルと全く同じ核データ処理手法、処理条件で多群断面積ファイルを作成することが可能となります。これにより、核データ処理手法や処理条件の違いの影響を除去した参照計算と多群放射線輸送計算の比較が実現しました。

FRENDY第2版では、異なる核種間の共鳴が干渉する効果など、従来の核データ処理システムでは取り扱えなかった効果を考慮することが可能となりました。今後これらの機能の充実に伴い、FRENDYの利用が進んでいくことが期待されます。

(多田 健一)