7-7 高度化MOX燃料の実用化に向けて

−燃料中の酸素含有量の微量変化を測定−

図7-16 MOX燃料の結晶構造の模式図

図7-16 MOX燃料の結晶構造の模式図

Oは温度や周囲の酸素分圧に応じてMOX燃料の結晶から出たり入ったりできます。このため、Oと金属元素(U、Pu、Am、Np)の原子数比が、例えば1.999、1.998・・・のように連続的に変化します。

 

図7-17 MOX燃料のO/M比と周囲の酸素分圧の関係(1873 K)

図7-17 MOX燃料のO/M比と周囲の酸素分圧の関係(1873 K)

他の条件(温度、酸素分圧及びPu含有率)が同じ場合、Am及びNpの含有によってMOXのO/M比は低くなることが分かりました。特に、AmはNpよりもO/M比を低くする効果が大きいことが分かりました。

 


使用済核燃料の中にはアメリシウム(Am)やネプツニウム(Np)等のマイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる元素が含まれ、これらは長い半減期と強い放射能を持ちます。これらの元素は、高速炉を用いて半減期が短く放射能が弱い元素に変換することが可能であるため、MAを含有させた高速炉用MOX燃料の研究開発が進められています。MOX燃料は、酸素(O)と金属元素(ウラン(U)、プルトニウム(Pu)、Am及びNp)の原子数比(O/M比)が連続的に変化する特異な性質を持つ物質です。図7-16にMOX燃料の結晶構造の模式図を示します。温度と周囲の酸素分圧に応じて、Oが結晶中から抜けたり(還元)、結晶中に入ったり(酸化)することで、結晶中のO/M比が連続的に変化します。O/M比がわずかでも変化すると、MOX燃料の融点や熱伝導率といった燃料設計において重要な物性が大きく変化することが分かっているため、MOX燃料のO/M比を正確に把握することが重要になります。

私たちの研究グループでは、Amを含有するMOX燃料と、Am及びNpを含有するMOX燃料を対象に、酸素センサー及び熱天秤と呼ばれる装置を用いて、様々な温度と酸素分圧に対して酸化・還元に伴う微量な重量変化を測定しました。これによって、温度と酸素分圧に対するO/M比のデータを取得することができました。

図7-17に横軸をO/M比、縦軸を酸素分圧としたグラフを示します。温度と酸素分圧が同じ場合、MA含有MOX燃料と、MAを含有しないMOX燃料を比べると、MA含有MOX燃料の方がより低いO/M比になる結果が得られました。これは、特にAm酸化物が有する非常に還元されやすい性質によるものと考えられます。

これまでにもMOX燃料のO/M比に関する研究は報告されていましたが、MA含有MOX燃料のデータは極めて限られていました。今回新たに取得したデータと既報のデータを合わせて解析することで、Am及びNpの含有率と、さらに温度と酸素分圧を変数として、O/M比を予測する評価式を作成することができました。このような定量的な評価はこれまでになかったものです。今後は、この評価式を利用して原子炉内のO/M比を予測し、そのO/M比に対応した物性値や原子炉内での振る舞いを予測・シミュレーションする研究を進める予定です。

(廣岡 瞬)