7-6 「もんじゅ」性能試験データの活用に向けて

−解析値と測定値の不一致を解明−

図7-14 制御棒駆動軸熱収縮の(a)発生メカニズム及び(b)測定値への影響補正

図7-14 制御棒駆動軸熱収縮の(a)発生メカニズム及び(b)測定値への影響補正

制御棒駆動軸熱収縮により生じた制御棒位置の差による測定値への影響を補正しました。

 

図7-15 固定吸収体の反応度測定試験データの(a)詳細補正及び(b)測定と解析の比較(不確かさは解析と測定の寄与の合計)

図7-15 固定吸収体の反応度測定試験データの(a)詳細補正及び(b)測定と解析の比較(不確かさは解析と測定の寄与の合計)

制御棒駆動軸熱収縮を含む詳細補正を適用することで、両ケースの測定値と解析値が一致することを確認できました。

 


原子炉設計に適用する核解析手法の妥当性確認には原子炉実機での試験測定値との比較が有効であるため、数少ない実機測定である「もんじゅ」試験を活用すべく試験データの評価・整備を進めています。

試験データの中には、測定値と再現解析値(試験を模擬した解析)の間に解釈が難しい不一致があるものもあります。例えば、固定吸収体(原子炉運転・制御のための制御棒と同等の機能を有する試験用集合体)の反応度価値測定試験では、同吸収体を1体及び3体装荷した試験(以下、各Case1及びCase2)のうち、Case1のみに測定値と解析値間に不確かさの合計を超えた差がありました。解析に最新知見を反映しても不一致は解消できませんでした。

本試験では、固定吸収体装荷前後の炉心(基準炉心/試験炉心)の臨界制御棒位置の差により固定吸収体の反応度価値を測定していますが、試験データの収集条件、評価過程を精査し、制御棒駆動軸の熱収縮による制御棒位置の変化が影響していることを突き止めました。駆動軸熱収縮とは、制御棒引抜により制御棒を吊り下げる駆動軸の一部が高温ナトリウム(Na)層から低温アルゴン(Ar)カバーガス層に移動することに伴い徐々に熱収縮し、操作量以上に制御棒が引き抜かれる現象です。熱収縮による制御棒位置変化は1 mm未満のわずかな量であり、制御棒引抜後の時間に依存します(図7-14)。

Case1の試験では、炉心中心の1本の制御棒(C1)の位置変化から固定吸収体の反応度価値を測定しています。それ以外の12本の制御棒の引抜操作量は両炉心で同じです。しかし、詳細に試験時の制御棒操作履歴を調査したところ、これら12本の制御棒について、所定位置に引抜後、臨界制御棒位置を測定するまでの時間が基準炉心で約1日、試験炉心で数時間と大きく異なっており、この操作履歴の差により、C1以外の駆動軸熱収縮量が両炉心で有意に異なることが分かりました。駆動軸熱収縮による制御棒位置変化を補正した結果、Case1の測定値と解析値が一致しました(図7-15)。なお、Case2にも同様に補正を適用していますが、他補正要因と相殺し、過去に評価された測定値と大きな差は生じないことを確認しました。

本研究によりケース間で整合しない測定値と解析値間の不一致を解消し、本試験を信頼できる妥当性確認用データとして整備することに成功しました。上記知見は他の試験(燃料集合体の反応度価値測定試験)にも適用し、データの信頼性向上につなげています。その他のデータについても再評価し、高品質な核解析手法の妥当性確認用データベースを構築していきます。

(大釜 和也)