7-5 放射性廃棄物の低減を目指した高速炉燃料の開発

−高濃度アメリシウム含有MOX燃料の化学量論に基づく熱伝導率の評価−

図7-12 レーザーフラッシュ法による熱伝導率測定の概要

図7-12 レーザーフラッシュ法による熱伝導率測定の概要

左の写真が実際に測定したAm-MOX試料です。右の概略図に示すように試料表面をレーザーパルスで加熱し、試料裏面の温度変化を検出器で測定します。本測定装置は試料周辺に加湿したH2ガスを流すことで、酸素分圧を調整しています。

 

図7-13 Am-MOXの熱伝導率測定結果とAm含有量の影響

図7-13 Am-MOXの熱伝導率測定結果とAm含有量の影響

レーザーフラッシュ法での測定により、5%、10%及び15%のAmを含有したMOX燃料の熱伝導率を測定しました(図中丸印)。測定結果から化学量論に基づく評価を行い、Am含有がMOX燃料の熱伝導率に与える影響を計算する式を導出しました。

 


長半減期で発熱性を有するアメリシウム(Am)等のマイナーアクチノイド(MA)を放射性廃棄物から分離し、高速炉で核変換する方策が検討されています。これにより、放射性廃棄物の処分場に与える負担を軽減し、人体への有害度が低減するまでの期間も大幅に短縮することが可能となります。そこで、私たちは、MAを高速炉で核変換し消滅させるために、MAを含有したウラン(U)・プルトニウム(Pu)混合酸化物(MOX)燃料の研究開発を行ってきました。MOX燃料へのMA添加により高速炉内での照射挙動が変化するため、その影響を把握することが必要となります。把握すべき燃料の熱的特性は数多いですが、燃料の溶融を防ぐ観点から、燃料中心温度に大きく影響する熱伝導率が、特に重要な物性となります。熱伝導率については、従来のMOX燃料には数多くの研究データがありますが、MAを含有したMOX燃料については、3%までのAmを含有したMOX燃料の熱伝導率が報告されているのみでした。また、MOX燃料の熱伝導率は酸素(O)と金属(U、Pu及びAm)の原子数比(O/M比)の影響も受けることが知られており、熱伝導率測定の際は考慮する必要があります。これらのことから、Am含有量が高いMOX燃料の熱伝導率測定はO/M比を一定に調整することが必要であり、いままでこのようなデータは報告されていません。

私たちは、Am含有量をパラメータとしたAm含有MOX燃料(Am-MOX)を作製し、O/M比を化学反応式から推定される元素比率である化学量論組成に調整して、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定しました。Am含有量は5%、10%及び15%としました。これによりAmがMOX燃料へ与える影響が明らかとなり、Am-MOXの照射挙動がより精度良く評価できるようになります。レーザーフラッシュ法による試験の概要を図7-12に示しますが、測定試料の表面をレーザーパルスで加熱し、試料裏面に熱が伝わることで生じる試料の温度変化を放射温度計等の検出器で測定します。温度変化の速度及び測定試料の厚さ等から熱拡散率を求め、これに比熱及び試料密度を考慮することで、熱伝導率を導出することができます。また、O/M比を一定に制御し、その影響を抑えるために、測定装置を改良して試料周辺に加湿したH2ガスを流すことで、酸素分圧を調整しました。導出した結果から、固体物性モデルに基づき、Amをパラメータとして化学量論組成のMOX燃料の熱伝導率を計算する式を作成し、結果の比較を行いました。

このように導出した熱伝導率をまとめ、UO2の文献値*と比較した結果(図7-13)、Am含有量が増加するとともに、熱伝導率が低下することが分かり、低温であるほどAm含有による影響が大きく、高温になるほど影響が小さいことも分かりました。また、Am含有量にかかわらず温度の上昇とともに、熱伝導率が低下することも分かりました。さらに、計算式から算出した熱伝導率は、測定値を良く再現することができました(図7-13の線)。これにより、試料密度及びAm含有量の情報から熱伝導率を評価することが可能となり、高速炉のAm-MOXの燃料中心温度等を決定する上での設計技術に貢献できます。

今後は、今回取得した化学量論組成の熱伝導率に加え、化学量論組成から外れた熱伝導率を測定することで、より総括的な評価及び定式化を行いたいと考えています。

本研究は、文部科学省からの受託事業「マイナーアクチニド含有低除染燃料による高速炉リサイクルの実証研究」の成果の一部です。

(横山 佳祐)

 

* Carbajo, J. J. et al., A Review of the Thermophysical Properties of MOX and UO2 Fuels, Journal of Nuclear Materials, vol.299, issue 3, 2001, p.181-198.