7-4 核燃料中の酸素拡散現象を正確に捉える

−MOX燃料の酸素自己拡散係数の測定とその評価−

図7-10 酸素自己拡散係数測定装置の概略図

図7-10 酸素自己拡散係数測定装置の概略図

本装置は、測定雰囲気中の酸素同位体濃度を一定に制御する系統と、測定試料のわずかな重量変化を連続的に計測する熱天秤で構成されます。

 

図7-11 酸素拡散係数の実験値と計算結果

図7-11 酸素拡散係数の実験値と計算結果

図中の各シンボルは(U0.7Pu0.3)O2及び(U0.55Pu0.45)O2における酸素拡散係数の実験値を示しています(後者のデータは1273 Kの文献値)。また、実線及び破線は本研究で得た評価式による計算値を示しており、実験値を良く再現できています。

 


高速炉で使用される混合酸化物(MOX)燃料において、その構成元素であるウラン(U)、プルトニウム(Pu)及び酸素(O)の拡散は、酸化・還元、焼結、照射中の元素移動といったMOX燃料を使用する上で把握すべき重要な現象と密接に関係しています。このうち酸素の拡散は、上記の現象に加えてMOX燃料の基礎物性(酸素ポテンシャル、格子欠陥濃度等)とも深く関係するため、拡散の速さを表す拡散係数を測定・評価することが不可欠です。しかし、MOX燃料の酸素拡散係数は、その重要性にもかかわらず、データが非常に少ないことが課題でした。これは、一般的なトレーサー法では、拡散熱処理と質量分析をそれぞれ行うため、測定手順が複雑であり拡散過程中に直接測定ができないこと、MOX燃料の酸素/金属原子数比(O/M比)の保持が困難なこと等の測定上の課題に起因したものでした。

そこで私たちは、MOX燃料の酸素拡散係数のデータを拡充することを目的として、酸素同位体(18O)を高濃度に含む酸素同位体水(H218O)を用いた実験手法を新たに開発しました。図7-10に実験装置の概略図を示しますが、本手法では測定試料中に含まれる16Oと酸素同位体水由来の18Oが置換した際のわずかな重量変化を熱天秤で連続的に計測し、その重量変化速度を解析することで酸素自己拡散係数を算出します。また、アルゴン(Ar)+H2ガスを酸素同位体水で加湿することで、H2−H2O平衡反応によって測定雰囲気中の18Oの量をコントロールし、MOX燃料のO/M比を一定にしながらの測定が可能となりました。これによって、トレーサー法よりもシンプルな手順で、これまでは測定が困難だったMOX燃料の定比組成の酸素自己拡散係数を取得することに成功しました。

本手法によって幅広い温度でデータを取得できたことから、酸素自己拡散係数の温度依存性が明らかとなり、加えて拡散に関係する基礎的な物性値である酸素欠陥の移動エネルギーについても求めることができました。さらに、これらのデータと熱力学データを組み合わせることで、MOX燃料中の酸素の欠陥濃度と拡散係数の関係が評価可能となりました。図7-11に酸素拡散係数の実験値と計算値を示します(図中の化学拡散は試料中に濃度分布がある場合の拡散と定義されます)。酸素拡散係数の計算結果は、文献値も含めた実験データと良く一致していることが分かります。また、本研究とPu含有率が異なるデータについても良く再現できており、温度及び酸素分圧だけでなく組成の変化に関しても本研究で得た評価式を用いて評価可能であることが示されました。

本研究で得られた酸素自己拡散係数及びこれらの取得データから求めた評価式によって、これまで経験式や既存モデル式の外挿によって求めていたMOX燃料の焼結及び酸化・還元に要する時間や照射中の酸素再分布の時間変化等を予測することが可能となりました。これにより、MOX燃料の製造プロセスの最適化やMOX燃料照射挙動解析コードの改良といった高速炉燃料技術の高度化に貢献することができます。

(渡部 雅)

 

* Vauchy, R. et al., Oxygen Self-Diffusion in Polycrystalline Uranium-Plutonium Mixed Oxide U0.55Pu0.45O2, Journal of Nuclear Materials, vol.467, part 2, 2015, p.886-893.