8-11 緩衝材中の放射性炭素の移行挙動を把握する

−圧縮ベントナイト中のカルボン酸、アルコールの拡散試験−

図8-26 拡散試験装置の概略図

図8-26 拡散試験装置の概略図

装置の拡散セル内部に圧縮ベントナイトが充てんされ、その両端のフィルター内に試験溶液が流れます。高濃度側容器にトレーサー(酢酸、酪酸、ブタノール)を添加し、ベントナイト中を拡散したトレーサーを低濃度側容器で回収して、透過量を測定します。

 

図8-27 拡散試験の結果

図8-27 拡散試験の結果

圧縮ベントナイトからのトレーサーの単位面積、単位時間あたりの透過量(フラックス)の時間変化(酢酸とヨウ素の例)を示します。フラックスは高濃度側溶液中のトレーサー濃度で規格化しています。

 

表8-2 試験により得られた実効拡散係数(De)と形状因子(FF)

酢酸(No.1、2)及び酪酸(No.3、4)はヨウ素と同等のFF値ですが、ブタノール(No.5、6)と重水は異なるFF値を示します(同じNo.の試料間で値を比較)。これは、酢酸や酪酸の拡散経路はヨウ素と同じですが、ブタノールは重水と拡散挙動が異なることを示します。

表8-2 試験により得られた実効拡散係数(De)と形状因子(<i>FF</i>)

拡大図(144kB)

 


地層処分される放射性廃棄物のうち、原子炉内で放射化された金属材料等には、放射性炭素(14C)が含まれています。地層処分では、廃棄物周囲に緩衝材として圧縮ベントナイトが設置され、放射性核種の移行を抑制します。しかしながら、14Cはベントナイトへあまり吸着せず、圧縮ベントナイト中を移行しやすいことから、安全上重要な核種となっています。廃棄物中の14Cの一部は、低分子量の有機化合物として放出されると考えられています。そのため本研究では、カルボン酸(酢酸と酪酸)及びアルコール(ブタノール)の圧縮ベントナイト中の拡散試験を実施し、それらの拡散挙動を調べました。また、拡散挙動の報告例の多いヨウ素と重水を用いて同条件で試験を行い、カルボン酸及びアルコールの拡散挙動と比較しました。

拡散試験装置(図8-26)により測定した圧縮ベントナイトからのトレーサーの透過量(フラックス)の時間変化を図8-27に示します。フラックスは時間とともに徐々に増加し、一定の値となります。この一定のフラックスよりフィックの法則に基づいて拡散係数(実効拡散係数:De)を算出し、Deから形状因子(FF)を計算しました(表8-2)。FFは、Deを各トレーサーの自由水中での拡散係数(D0)で除することで算出され、拡散経路の特性(屈曲の度合いなど)を示しています。各試料のFFを比較すると(同じ手順で作製しても試料の状態に違いがあり、同条件の試料でも結果に差異が出るため、同じNo.の試料間で値を比較します。)、酢酸と酪酸のFFは、これらと同様に陰イオンとして拡散するヨウ素と同等の値ですが、ブタノールは同じ電気的に中性のトレーサーである重水とは異なるFF値を示します。このことは、ブタノールと重水の拡散挙動には違いがありますが、酢酸や酪酸の拡散経路はヨウ素と同じであり、酢酸、酪酸、ヨウ素のDeの違いはそれらのD0の違いのみに起因することを示しています。すなわち、カルボン酸(酢酸と酪酸)のDeは、ヨウ素のDeからD0を利用して推定可能であることが分かりました。

地層処分の安全評価では、圧縮ベントナイト中の放射性核種のDeを正確に把握することが重要です。これまで、カルボン酸のDeはあまり報告がありませんが、ヨウ素のDeは数多く報告されています。本研究の結果は、ヨウ素のDeをカルボン酸のDeの設定へ活用することを可能とし、14CのDe設定の精度向上に寄与する成果です。

本研究は、経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成27~29年度 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(直接処分等代替処分技術開発)」の成果の一部です。

(石寺 孝充)