8-10 熱力学的収着モデルで放射性核種の挙動を予測する

−処分場の環境変遷が緩衝材中の核種移行に与える影響を評価−

図8-24 モンモリロナイトの構造とCaの収着挙動

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図8-24 モンモリロナイトの構造とCaの収着挙動

モンモリロナイトは層状構造をしており、層の底面部分とエッジ部分に様々な元素を収着します(a)。幅広い溶液条件で試験を行うことで、Caはエッジサイトにも収着することが確認されました(b)。

 

図8-25 Sr及びNiのKdとCaの影響

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図8-25 Sr及びNiのKdとCaの影響

Caの存在によってSrのKdは低下しましたが(a)、NiのKdは影響を受けませんでした(b)。本試験によって得られた収着パラメータを用いて熱力学的収着モデルにより再現計算を行ったところ、結果を良好に再現することができました。

 


高レベル放射性廃棄物の処分場にはセメント系材料が使われることが想定されており、長期間の環境変遷によってセメントが溶出して廃棄体周囲の緩衝材の間隙水中カルシウム(Ca)濃度が高くなることが考えられます。緩衝材には放射性核種を収着してその移行を遅延させる役割がありますが、Ca濃度が高くなると放射性核種とCaの収着の競合が起こり、収着が阻害されることが考えられます。放射性核種が緩衝材や岩盤中の粘土鉱物などに収着する度合いは収着分配係数(Kd(m3/kg))という値で表されます。地層処分の安全性を評価するには様々な条件でKdを取得することが理想的ですが、Kdは溶液のpHや組成によって変化するため、全ての条件で実測することは現実的ではありません。そこで、収着のメカニズムに基づいてKdを予測する熱力学的収着モデルという手法が研究されています。

本研究では緩衝材中で収着を支配する粘土鉱物であるモンモリロナイトに対するCaの収着挙動を調べました。また、地層処分の性能評価上重要な元素として挙げられるストロンチウム(Sr)及びニッケル(Ni)の収着に及ぼすCaの影響を評価しました。

一般に、粘土鉱物に対する収着は底面サイトにおける陽イオン交換反応とエッジサイトにおける表面錯体反応に分けられ、前者はイオン強度(塩濃度)、後者はpHの影響を受けます(図8-24(a))。これまでCaは陽イオン交換反応によって収着することは知られていましたが、幅広い溶液条件でCaのKdを取得したところ、高イオン強度の条件では高pHでKdが大きく上昇し、表面錯体反応による収着が顕著となることが確認されました(図8-24(b))。この傾向はCaと同族元素のSrでも確認され(図8-25(a))、弱酸性のpH領域から表面錯体反応が顕著となる遷移金属元素のNi(図8-25(b))とは異なるものでした。次に、Sr及びNiのエッジサイトに対する収着に及ぼすCaの影響を評価する試験を行ったところ、Srの収着はCaの存在によって阻害されたものの、Niの収着は影響を受けていませんでした。このことは、エッジサイトは複数種存在することを示唆しています。これらの結果を踏まえ、Caと化学的性質が似ているSrは同じサイト、Niは異なるサイトに収着すると仮定し、PHREEQCという地球化学計算コードを用いて熱力学的収着モデルにより実測値の再現を行い、各元素の収着パラメータ(log K)を導出しました。得られたlog Kを用いて計算を行うと、収着競合試験の挙動を良好に再現することができました。

本研究から、元素はその化学的性質によってそれぞれ異なるエッジサイトに収着することが実験とモデルから明らかとなりました。今後、収着パラメータを蓄積することで様々な条件でのKdを熱力学的収着モデルにより予測することができ、時間経過によって処分場周辺の環境が変化した場合でも、その影響を予測することができると期待されます。

本研究は経済産業省資源エネルギー庁からの受託事業「平成30年度 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(沿岸部処分システム高度化開発)」の成果の一部です。

(杉浦 佑樹)