8-9 よく似た化学組成を持つ火山砕屑物を判別する

−局所法による火山ガラスの化学組成分析手法の構築−

図8-22 本研究で構築した火山ガラスの分析フローチャート

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図8-22 本研究で構築した火山ガラスの分析フローチャート

火山ガラスに適した前処理手法の検討、EPMAとLA-ICP-MSによる火山ガラスの化学組成分析手法の開発を行い、微量元素組成の情報を含めてテフラの詳細な対比を可能にしました。

 

図8-23 開発した手法によって測定した姶良?丹沢テフラの火山ガラスの微量元素濃度を大陸地殻で規格化した組成パターン

図8-23 開発した手法によって測定した姶良−丹沢テフラの火山ガラスの微量元素濃度を大陸地殻で規格化した組成パターン

微量元素濃度の測定結果が、既報値と一致し、適切に分析できていることが分かりました。

 


地層処分システムの長期的な安全性を評価するには、将来の地質環境の安定性を過去の自然現象の履歴に基づいて予測する必要があります。火山噴火で噴出した火山灰などの火山砕屑物(テフラ)は、広範囲に短時間で堆積するため、地層や地形の編年において同時間面の指標となります。テフラを用いる年代学(テフロクロノロジー)は、自然現象の履歴の解明に有効です。テフロクロノロジーでは、堆積年代の分からない地層から採取されるテフラが、既知のテフラのうち、どのテフラと同じか調べる(対比する)ことによってテフラを含有する層やその周囲の地層の年代を求めます。テフラの対比では、その特徴(形状、構成物、屈折率、化学組成等)を把握し、比較します。特にテフラに含まれる火山ガラスの化学組成は重要な指標の一つですが、同じ給源から異なる時期に噴出した火山ガラスでは、主要元素組成が類似している場合があります。そのため、火山ガラスの微量元素組成を指標としたテフラの対比が注目されています。

従来、火山ガラスの微量元素組成の分析は、鉱物片等を多量に含むテフラから火山ガラスだけを分離(純化)し、それらを酸で溶解して測定する湿式分析によって行われてきました。しかし、従来法では試料の前処理が煩雑であり、また、ガラスの純化の程度(鉱物片の混入など)が分析結果に大きく影響する可能性がありました。このような課題を解決するために、煩雑な前処理が不要な局所分析による火山ガラスの微量元素組成分析手法を検討しました。

本研究では、火山ガラスに適した前処理手法を検討し、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)での火山ガラスの主要元素組成分析手法及びレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)による微量元素分析手法を開発・整備しました(図8-22)。本研究の分析では、試料の溶解を必要とせず、固体のまま分析可能ですが、事前に試料表面の研磨が必要となります。火山ガラスは、鉱物に比べ形状が不規則であり、研磨の際に脱落しやすいため、本研究では既存の手法を最適化して樹脂へ埋め込む方法を整備しました。また、LA-ICP-MSでの精確な微量元素の定量分析で鍵となるEPMAでの主要元素組成の分析では、測定対象である火山ガラスと主成分が類似したガラス質な標準試料を用いることで、鉱物を標準物質として用いる従来法よりも精確な分析を可能にしました。そして、LA-ICP-MSによる微量元素組成の分析では、従来、一つの標準試料を用いた検量線法が採用されてきましたが、火山ガラスと主成分が類似した試料を含む三つの標準試料を用いる定量手法を確立しました。その結果、テフラの対比に十分な精度で火山ガラスの微量元素組成が得られることが確認され(図8-23)、火山ガラスの化学組成を迅速に分析することが可能になりました。

テフロクロノロジーにおいては、対比の基準となるテフラカタログの堅牢さが重要となります。微量元素組成を含めた化学組成が明らかになっている国内のテフラは未だ少ないため、今後は、多数点を迅速に分析可能な本技術を用いて、対比の基準となるデータベースの充実化を図りたいと考えています。

(鏡味 沙耶)