8-8 軟らかい岩盤内で水が流れにくい場所を予測する

−立坑掘削に伴う水理力学連成応答解析による透水性評価−

図8-20 立坑及びボーリング孔の位置と水理力学連成解析による排水開始1年後の水頭変化の鉛直分布

図8-20 立坑及びボーリング孔の位置と水理力学連成解析による排水開始1年後の水頭変化の鉛直分布

(a)立坑及び本研究で着目したボーリング孔(PB-VO1孔、HDB-6孔)の位置、(b)深度200 m以深における水頭分布、(c)深度400 m以深の水頭分布の拡大を示しています。

 

図8-21 HDB-6号孔における深度500 m以深におけるシミュレーションによる水頭変化と観測値の比較

図8-21 HDB-6号孔における深度500 m以深におけるシミュレーションによる水頭変化と観測値の比較

(a)稚内層浅部及び深部の各々を高透水性及び低透水性と仮定した場合、(b)稚内層深部の透水性が浅部と同等に高透水性と仮定した場合の結果です。異なる色で観測区間ごとの結果を、実線及び破線は多孔質弾性効果を考慮した場合と考慮しない場合の解析結果で、点は観測値を示しています。

 


地層処分における安全評価において、地下水が流れにくく、放射性核種の移行速度が抑制される低透水性の領域を把握することは重要です。通常の水理試験等では水圧応答が小さいために、低透水性領域の分布を評価することが困難ですが、地下施設からの排水量が多い立坑掘削時には低透水性の領域でも水圧応答が生じ得ることにより、直接的に評価できる可能性があります。そこで、地下深部における透水性の評価を目的として、幌延深地層研究センターの換気立坑の掘削深度が250 mに到達後の1年間の排水に伴う水圧応答の再現解析を実施し、深度250 m以深に位置する稚内層における透水性を評価しました。

幌延深地層研究センターの地下に分布する堆積岩では、岩盤が軟らかく変形しやすいため、坑道からの排水に伴い岩盤が変形し水圧応答が影響を受けること(多孔質弾性効果)が予測されます。そこで、地下水の流動と岩盤の変形の両方を考慮した水理力学連成解析により立坑掘削時の水圧応答の再現解析を実施しました。今回の解析では、市販の解析プログラムであるFLAC3D-5.01を使用しました。

解析では換気及び東立坑近傍のボーリング孔における声問層と稚内層を対象とし(図8-20(a))、稚内層内は、既往研究における地下の力学状態に基づいて、深度400 mで高透水性の浅部領域と低透水性の深部領域に更に分割しました。声問層及び稚内層浅部では原位置試験により取得された透水性を、稚内層深部では健岩部相当の透水性を仮定したモデルを用いて解析しました。図8-20(b)は、解析により推定された排水開始から1年後の深度方向の水頭分布を示しています。排水に伴い声問層及び稚内層浅部では水頭が低下しましたが(図8-20(b))、稚内層深部では多孔質弾性効果により上昇した水頭が低透水性の岩盤により保たれています(図8-20(c))。図8-21は深度500 m以深における解析結果と観測値の比較を示しており、図8-21(a)では稚内層浅部及び深部の各々を高透水性及び低透水性と仮定し、図8-21(b)は稚内層深部の透水性が浅部と同じ高透水性と仮定しています。両結果とも多孔質弾性効果を考慮することにより水圧の上昇を再現していますが、図8-21(a)に示す解析結果の方が観測値とより調和的であることから、稚内層深部の深度500 m以深は健岩部と同程度に低透水性であると推察できました。このように、多孔質弾性効果の影響が顕著な場合にも、その影響を考慮することにより透水性の評価ができました。深度400 mから深度500 mにおいても、モデルの透水性を様々に仮定した場合の解析結果と観測値を比較したところ、深度とともに徐々に透水性が低下するモデルから得られる解析結果が観測値と最も整合的であり、稚内層では浅部から深部にかけて透水性が徐々に低下することが推定されました。声問層や稚内層では、亀裂や断層の水理的連結性が透水性を支配する要因となることから、稚内層では断層の水理的連結性が深度とともに低下していると解釈できます。

本研究により、幌延深地層研究センターの地下の稚内層では、断層の水理学的連結性が深度に応じて低下し深度500 m以深においては健岩部相当の低透水となることが推察されました。また、本研究の解析事例は、力学水理連成応答の影響が顕著な場合の参考事例となると考えられます。

(尾崎 裕介)