8-7 汎用装置で地下の岩石の割れ目をずらすことに初成功

−様々な地下利用に向けて大きく進展−

図8-19 既存の専用装置を用いた方法(a)と今回開発した汎用装置を応用した方法(b)との比較

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図8-19 既存の専用装置を用いた方法(a)と今回開発した汎用装置を応用した方法(b)との比較

それぞれの方法の特徴、既存の方法の課題及び今回の方法の改善点を整理しています。

 


高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地殻変動などに伴って地下の割れ目がずれることにより割れ目の透水性が上昇し、地層の閉じ込め性能に影響を及ぼす可能性を検討する必要があります。この検討のためには実際に地下の割れ目を人工的にずらす試験が有効であり、そのためには試験中の割れ目のずれを観測する方法が必要となります。近年、海外で開発された方法では、まず、特別な専用装置をボーリング孔内の割れ目部に設置します。次に、注水により割れ目内の水圧を上昇させることで割れ目を人工的にずらします。そして、特別な専用装置によりそのずれを観測し、割れ目のずれが透水性に与える影響を調べます(図8-19(a))。

しかし、このような試験を国内で行うためには、その都度、海外の専門業者に依頼する必要があり、多額の費用と時間がかかります。また、現在用いられている試験装置では、観測できる割れ目のずれ幅の上限が数mmと限定的であるなど、技術的な課題がありました。

今般、新たな方法として、地層の透水性を測定するために従来用いていた汎用的な試験装置を活用して注水中の割れ目のずれを観測する方法を考案しました(図8-19(b))。本方法では、割れ目がずれる際に、試験区間長がわずかに変化することで、パッカーと呼ばれるゴム製の容器内の圧力が変化する現象を利用します。この現象を室内実験で詳しく調べた結果、割れ目のずれ幅とパッカー圧の変化に一定の関係が存在することが分かりました。この関係を利用して、幌延深地層研究センターの堆積岩の地下の割れ目(断層)を対象に実証試験を行った結果、本方法が有効であることが確認できました。

今回行った実証試験では、数cmに及ぶ破壊を伴うずれまで観測できました。観測したずれの大きさは、既存の専用装置で観測できるずれよりも大きなものでした。そして、このような大きなずれが生じても、透水性に有意な変化が生じないことを注入後の割れ目の透水性から確認することができました。

今回の成果により、今後、国内でも割れ目を人工的にずらし、割れ目のずれが透水性に与える影響を容易に調べられるようになりました。この方法は、地下深部へ流体・ガス注入を行った際に発生し得る割れ目沿いの瞬間的に生じるすべりの抑制対策(注入方法の検討)や地下の割れ目の力学的安定性の評価にも活用できます。したがって、高レベル放射性廃棄物の地層処分のほか、CO2地中貯留、地熱・石油・天然ガス開発、鉱山開発、斜面防災といった様々な地下利用に係る分野の課題解決に広く貢献することが期待されます。

(石井 英一)