図1 高浜3号機照射後試料の核種組成測定値と計算値の比較
図2 核種ごとに核データを変更した場合の核種組成計算値の変化(%)
核データは原子力・放射線分野の解析において必須となる基礎データであり、評価済み核データライブラリという形で世界の主要国にて整備されています。日本の評価済み核データライブラリであるJENDLは、2021年末にその最新版であるJENDL-5が公開されました。JENDL-5では、その1つ前のバージョンにあたるJENDL-4.0から、核反応断面積(核種と中性子との反応確率)や崩壊データ(α崩壊やβ崩壊などの崩壊確率や割合等)など、多くの重要な核データが更新されました。
新しい核データを安全評価等に利用するためには、実験解析などによる計算値と測定値の比較により、前もって核データの妥当性を確認する必要があります。核データの妥当性確認に有用な測定データの一つが照射後試験データです。これは実際に原子炉等で使用された核燃料の核種組成等を破壊分析等により測定したものです。原子炉内の核燃料中の核種組成の時間変化を追跡する計算(燃焼計算)によって照射後試験試料の核種組成を評価し、測定値と比較することで、使用した核データが妥当であるかどうかを確認することができます。燃焼計算は、原子炉の炉心設計や使用済燃料の臨界・放射線安全評価などにおいて基盤となる計算であり、ゆえに燃焼計算における核データの妥当性確認は非常に重要です。
本研究では、JENDL-5を用いてこれまでに多数の利用実績がある高浜3号機PWR(加圧水型原子炉)燃料の照射後試験データの解析を行い、軽水炉の燃焼計算におけるJENDL-5の妥当性確認を行いました。図1にはSerpent 2という燃焼計算コードを用いて計算した照射後試験試料の核種組成と測定値との比較結果を示しています。核データにはJENDL-5の他に、比較としてJENDL-4.0を用いた場合の結果も示しています。図1の結果から、JENDL-4.0とJENDL-5を用いた場合の計算値と測定値の差異は両者とも数パーセント程度の範囲で得られており、核種組成計算においてJENDL-5がJENDL-4.0と同程度の精度を有することを示しました。
また、JENDL-4.0とJENDL-5で様々な核種の計算値と測定値の差異が全体的には同程度であった一方で、核種別に見ると大きく結果が異なる核種が存在することを確認できました。例えば、図1の238PuはJENDL-4.0では計算値と測定値の差異が小さいのに対し、JENDL-5では−7%の差異がみられています。このようなJENDL-4.0とJENDL-5による結果の違いの原因を特定するため、本研究ではさらに一部の核データのみをJENDL-4.0からJENDL-5に入れ替えて計算を行いました。これにより、JENDL-4.0からJENDL-5の核データの更新が核種組成計算結果に与える影響を詳細に確認しました。図2には、結果の一例として、主な重核種について核種ごとに核反応断面積をJENDL-4.0からJENDL-5に入れ替えた場合の核種原子個数密度の計算値の変化を示しています。図2では、例えば、238Puの原子個数密度は、238Puの核反応断面積のみを入れ替えた場合に全核種の核反応断面積を入れ替えた際の−7%の差異に近い−5.8%の差異が生じています。このことから、238Puの原子個数密度の差異が主に238Puの核反応断面積の更新から生じていることが分かりました。
本研究は照射後試験データを用いた軽水炉燃焼計算におけるJENDL-5の妥当性や、JENDL-5における核データ更新が核種組成計算結果に与える影響について、初めて詳細に議論しました。本研究成果が今後のJENDL-5利用の普及や将来的な更なる核データの改善等に貢献していくことが期待されます。
(渡邉 友章)