図1 気泡群の様相
図2 時間平均ボイド率(気相体積割合)分布
プールスクラビングは、原子炉の重大事故時に粒子状の放射性物質(エアロゾル)の環境放出を低減するための対策の一つであり、気泡内に含まれるエアロゾルが気相から液相へ移行することで粒子を除去する湿式フィルタの一種です。このプロセスは、沸騰水型原子炉のサプレッションプールや加圧水型原子炉の蒸気発生器の二次側などで生じ、フィルタベントシステムにも適用されています。
プールスクラビングでは、気体注入後に形成される大気泡の分裂によって小気泡の集合である気泡群が生じます。気泡群は、気泡の合体や分裂を繰り返しながら上昇し、最終的にプール水面に到達します。気泡内の粒子移行はこのような気泡の力学挙動に強く影響を受けるため、気泡挙動を実験によって把握することと並行して、数値解析による予測や現象のモデル化が数多く行われています。数値解析手法の一つである数値流体力学(CFD)では、気泡流の現実的な流れを再現し、実験では得られない高解像度の情報を得られる可能性があります。
本研究では、気体と液体の境界面(界面)を追跡する手法として、Volume Of Fluid(VOF)法にLevel Set(LS)法を組み合わせたSimple Coupled Volume Of Fluid with Level Set(S-CLSVOF)法を採用しました。VOF法は気液体積率(VOF関数)の輸送により界面位置を特定する手法ですが、体積率は界面勾配の情報を持たないため、滑らかな界面を再現するためにLS関数を利用しました。LS関数は界面まで最短距離(法線ベクトル)を表す距離関数で界面の傾きを表現できます。このように両者の長所を活かして、気泡全体の追跡をVOF法で、界面の曲率や法線ベクトル解析をLS法で行います。図1は、S-CLSVOF法によって解析した気泡群の様子を示しています。プール底部中央にある円形のオリフィス(孔)から注入された空気は、大気泡を形成後離脱します。離脱した気泡は、分裂と合体を繰り返しながら気泡群を形成し、気泡群の小気泡は軸回転しながら全体として斜め上方向へ広がりながら上昇することが確認できます。
解析結果の妥当性を検証するため、ボイド率(気相体積割合)を既存の実験結果*と比較しました(図2)。注入直後(高さ100 mm)のボイド率は、0.25のピークが見られます(図2(a))が、プールの液面(高さ1000 mm)に近づくにつれ、ボイド率は減少し、半径方向に広がります(図2(a)及び(b))。解析結果は実験結果とよく一致し、気泡群を正確に予測できることが確認できました。
本研究により、CFD解析は検証実験を補い、実験で計測が難しいパラメータ(界面積濃度、気泡上昇速度)を予測できる可能性があることを示しました。将来的には、原子力規制等で使用されているシビアアクシデントコードの検証や高度化に資するデータの提供を目指しています。
(岡垣 百合亜)
*Abe, Y. et al., Bubble Dynamics with Aerosol During Pool Scrubbing, Nuclear Engineering and Design, vol.337, 2018, p.96-107.