11-6 地下に広がる汚染分布を3次元で高精度に評価

−廃炉に向けた地下の汚染状況把握への貢献に期待−

図1 実際の汚染事例(廃棄物処分場、カナダ)に対する3次元汚染分布の評価

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図1 実際の汚染事例(廃棄物処分場、カナダ)に対する3次元汚染分布の評価

本手法では、限られた測定濃度から、汚染源からの放出履歴(未知)を逆解析することで、領域全体の汚染分布を求めます。検証の結果、3つの化学物質に対し、推定した汚染分布(上)は測定濃度と高い相関を示し、従来の手法に比べて誤差が低減しました(下)。

 


放射性物質や化学物質による地下水汚染が生じた場合、住民への影響を調べ、除染等を効果的に行うためには、汚染の広がりの把握が必須です。汚染の発生時期や放出量(放出履歴)が明らかであれば、汚染分布は地下水流動・物質移行の数値シミュレーションで評価できます。しかし多くの場合、こうした情報は事前に分かりません。

このような場合にも汚染分布を評価できる手法として、地下水中の物質移動モデルに基づく統計学的アプローチが提案されています。地下水の流れが一定なら、汚染濃度と放出履歴は線形関係にあります。これを利用すれば、放出履歴が不明な事故時にも、限られた汚染濃度の測定データから汚染分布を評価できます。しかし従来の手法には、(1)負値の発生(非現実的)を防げない、(2)実際の汚染事例での3次元的な検証例がない、という2つの問題がありました。

これらの問題を解決するために、従来の手法にベイズ推定に基づく非負の制限(ギブスサンプリング)を導入した、新たな評価手法を開発し、カナダの廃棄物処分場での化学物質による汚染事例に適用しました。評価は、帯水層中の一様な流れを仮定した物質移行モデル(理論解)を用いて、汚染発覚当時(1982年)の測定濃度を入力として実施しました。その結果、汚染の発生時期について、実際の大規模投棄に対応したピークを推定できました(図1上)。さらに、土壌への吸着のしやすさが異なる複数の化学物質の3次元汚染分布を、従来よりも高い精度で再現できました(図1下)。これらの結果は、実際の地下水汚染に対し、開発した手法が有効であることを示しています。

本手法は、地下に広がる汚染分布とその不確かさを3次元で可視化できるため、環境修復の策定だけでなく、追加測定点の検討にも活用できます。今後は、地盤の透水性の不均質性等も考慮することで、更なる推定精度向上を図り、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた汚染状況把握に加え、一般の地下水汚染への貢献にもつなげたいと考えています。

本成果は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「令和3年度原子力発電施設等安全技術対策委託費(廃止措置リスク評価に関する検討)事業」の成果の一部です。

(高井 静霞)