11-5 火災時における施設内の閉じ込め性能を維持する

−グローブボックス材料火災時のHEPAフィルタの目詰まり特性の評価−

図1 施設内の核燃料物質等の閉じ込め機能を担うHEPAフィルタの位置並びにGB火災に伴う煤煙や放射性エアロゾルの換気系内移行の様子

図1 施設内の核燃料物質等の閉じ込め機能を担うHEPAフィルタの位置並びにGB火災に伴う煤煙や放射性エアロゾルの換気系内移行の様子

ガス中の微粒子を高効率で除去するHEPAフィルタは、建屋内のガスを建屋外に放出する排気筒の上流に位置し、換気系における最終的な閉じ込め設備を担っています。

 

図2 HEPAの差圧と煤煙負荷量の関係:(a)HEPAの差圧と煤煙負荷重量及び(b)HEPAの差圧と煤煙負荷体積

拡大図(157kB)

図2 HEPAの差圧と煤煙負荷量の関係:(a)HEPAの差圧と煤煙負荷重量及び(b)HEPAの差圧と煤煙負荷体積

(a)で得られたΔPは、いずれの燃焼条件においてもMpの2次関数で表せることが明らかになりました。(b)では負荷量を負荷される煤煙の粒径分布から算出されたVpで表すことで、同じVpに対するΔPの変化には、燃焼物質別、給気流量条件別に規則性があることが見い出せました。

 


ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工施設に対しては、核燃料物質等の閉じ込め機能の喪失が重大事故の一つとして選定されています。同施設の核燃料物質等の閉じ込め機能は、概略図(図1)に示すように、飛散性の高い粉末状の核燃料物質等を取り扱うグローブボックス(GB)内や施設内のガスの負圧を維持することと、ガス中に移行した粒子状の核燃料物質等を換気系に設置された多風量型の高性能粒子エアフィルタ(HEPA)によって除去することにより担保されています。GBには、アクリル(PMMA)やポリカーボネート(PC)等の樹脂製の可燃性パネル材が含まれています。パネル材燃焼に伴う火災事故が生じた場合には、大量に放出された煤煙による目詰まりによってHEPAの差圧が上昇して破損する恐れがあります。HEPAが破損すると核燃料物質等が施設外に放出されることになるため、破損前にHEPAを交換する等のアクシデントマネジメント(AM)が必要となります。こうしたAM実施の時間的余裕を確認するためには、火災に伴うHEPAの経時的な差圧上昇を計算するための基礎データが必要となります。

火災時におけるHEPAの経時的な差圧上昇の評価を行うためには、可燃性物質の種類ごとに異なる燃焼物からの煤煙の放出量や粒径分布等の放出挙動並びにHEPAへの煤煙負荷量と差圧の関係を把握する必要があることから、PMMAやPCを燃焼物とした燃焼試験を行いました。そのうち、HEPAへの煤煙負荷重量と差圧の関係を得るための試験では、燃焼物種類や燃焼を行った試料を置いたセルへの給気流量(Fv)条件をパラメータとし、実施設で用いられるものと同型のHEPAを使用してJIS規格でHEPAの品質が担保されている差圧近くまでの関係を得ました。煤煙負荷重量(Mp)と差圧(ΔP)の関係(図2(a))では、いずれの燃焼条件においても差圧上昇はMpの2次関数で表せることを明らかにしました。また図2(a)と同じ燃焼条件において、同じFvの下ではセル内で発生した煤煙濃度の測定結果はPCの方が高くなりました。さらに同じ燃焼物の下ではFvが低い方が高温場となったセル内での煤煙の滞留時間が長いために、セル内で煤煙粒子が凝集して粒子径が大きくなり粒子形状も複雑化する傾向があります。こうした煤煙粒子が負荷されるHEPAのΔPの変化には煤煙粒子の大きさ(体積)による寄与が大きいものと考えられます。そこで、図2(a)のMpを別途経時計測した煤煙粒子の粒径分布を用いて球形形状を仮定して煤煙体積に換算しさらに時間積分して得たHEPAへの煤煙負荷体積(Vp)に変えて整理しました(図2(b))。図2(b)では同じVpに対するΔPの大きさは、PCの方がPMMAよりも大きく、さらに同一燃焼物の下での同じVpに対するΔPの大きさはFv条件の小さい方が大きくなり、ΔPの変化に規則性があることを見い出し、上記の考察が妥当であったことを示すことができました。さらにΔPの上昇挙動を統一的に評価できるように評価モデルの改良を進める予定です。

本研究は、原子力規制庁からの受託事業「平成30年度原子力施設等防災対策等委託費(再処理施設等における火災事故時影響評価試験)事業」の成果を含んでいます。

(田代 信介)