11-4 軽水炉燃料の設計や安全評価をより合理的に

−ジルコニウム基合金被覆管の照射成長挙動予測手法の構築−

図1 改良合金被覆管の照射成長試験の概要

図1 改良合金被覆管の照射成長試験の概要

商用PWR条件を模擬可能な照射リグ及び試験片の設計、照射温度、水化学条件等を検討し、ノルウェー・ハルデン炉を用いた照射試験を2011年から2018年までの期間にて実施しました。

 

図2 高速中性子照射量7.8×1025(1/m2)における照射成長量と照射中に析出した水素量の関係

図2 高速中性子照射量7.8×1025(1/m2)における照射成長量と照射中に析出した水素量の関係

試験片材料の違いによらず、水素化物析出に伴って照射成長量が増大していることを明らかにしました。この効果は図3の予測式第2項(赤字部分)に反映しました。

 

図3 照射成長量の予測式(a)及び測定値との比較(b)

図3 照射成長量の予測式(a)及び測定値との比較(b)

本研究で得られた知見を使い、合金成分など被覆管仕様や照射条件をパラメータとした照射成長挙動予測式を構築しました。

 


原子力発電所で使われる燃料は、燃料ペレットとジルコニウム合金製の燃料被覆管から成ります。産業界では、原子力発電所の安全性向上と有効活用の観点から、被覆管の耐腐食性を向上させるため、従来とは成分の異なる改良ジルコニウム基合金(改良合金)の開発が進められてきました。

こうした中、2000年代に米国で行われた照射試験において、改良合金被覆管を使用した燃料集合体の一部で異常な変形の観察例が報告されました。この原因として、被覆管が高速中性子の照射を受けることで長手方向に伸びる現象(照射成長)の関与も考えられたため、改良合金に含まれる添加元素やその製造条件、照射中に生じた腐食等が照射成長に及ぼす影響について知見の整備が求められていました。

そこで、近い将来国内の原子力発電所に導入される可能性の高い改良合金被覆管試料を入手し、ノルウェーのハルデン炉に輸送して、加圧水型原子炉(PWR)の代表的な冷却材条件を模擬した条件下で、約8年間にわたる多様な被覆管材料の同時照射試験を実施しました(図1)。この試験では、まず一定期間ごとに試験片の寸法変化等を測定する中間検査を行うことで、照射成長量と高速中性子照射量(〜7.8×1025(1/m2))との関係を明らかにしました。次に、照射後の試験片を原子力機構の燃料試験施設で分析し、冷却材との反応による燃料被覆管の腐食量、腐食に伴う被覆管金属部への水素吸収量を調べました。

詳細分析の結果、改良合金ではニオブ添加によって照射成長が抑制される傾向があることに加え、腐食に伴い吸収された水素が照射下で水素化物として析出する挙動が、照射成長量の増大と強く結びついていることを、初めて見い出しました(図2)。最後に、本研究の過去に類を見ない多様な被覆管材料を用いた同時照射試験からのデータ取得という特長を活かし、合金成分等様々な条件の組合せによって変化する照射成長量を評価することが可能な予測式を構築しました(図3)。これは上記水素影響の知見を反映の上、ベイズ統計手法の適用により不確かさの評価にも対応したモデルです。本成果は、原子力規制の立場では事業者による設計・評価の妥当性検証に、また産業界の立場では燃料開発や設計の効率化に広く活用可能です。

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「令和2年度原子力施設等防災対策等委託費(燃料破損に関する規制高度化研究)事業」として行われたものです。

(垣内 一雄)