11-3 事故時の原子炉圧力容器の健全性評価手法の精度向上に向けて

−破損挙動に及ぼすステンレスオーバーレイクラッドの効果−

図1 RPVの健全性評価手法の概要

図1 RPVの健全性評価手法の概要

破壊靭性()が応力拡大係数()を上回っていることにより健全性が確認されます。それぞれ、破壊靭性は破壊試験、応力拡大係数は計算によって求められます。

 

図2 破壊靭性曲線とクラッド下亀裂の破壊靭性値の比較

図2 破壊靭性曲線とクラッド下亀裂の破壊靭性値の比較

現在の健全性評価手法に基づく方法で求めた破壊靭性曲線とクラッド下亀裂に対する破壊靭性値を比較し、安全裕度があることを確認しました。

 

図3 FEMによる亀裂先端の応力解析

拡大図(122kB)

図3 FEMによる亀裂先端の応力解析

(a)解析モデル:亀裂開口力が最も大きくなる試験片の中央面に対して対称な1/2対称モデルを表示しています。(b)亀裂先端の亀裂開口方向の応力分布:応力が高い程亀裂から破壊が発生しやすくなります。この結果に基づいて破壊靭性値の予測を行いました(図2)。

 


軽水炉の安全上重要な機器である原子炉圧力容器(RPV)は、運転期間中に原子炉配管の破断事故等が生じた場合にも破壊しないことが求められています。そのためには事故時に想定される負荷に対して破壊が生じないようにRPVが十分な強度(健全性)を有する必要があります。図1に示すように、RPVの健全性評価では、RPVの構造材料の抵抗力(破壊靭性)が、事故時に緊急炉心冷却水によりRPV内表面が急冷されることによって生じる破壊力(応力拡大係数)を上回ることを確認します。ここで、破壊靭性は一般的にコンパクトテンション型(C(T))試験片(図1左上写真)と呼ばれる試験片を用いて評価されます。一方、応力拡大係数は計算によって求め、その際にはRPV内表面近傍に亀裂の存在を想定します。

RPV内表面には、腐食を防止するためのステンレス鋼による内張り(ステンレスオーバーレイクラッド)加工が行われ、想定亀裂はクラッドの直下に存在する(クラッド下亀裂)と考えます。ここで、C(T)試験片に対して、クラッド下亀裂は亀裂端がクラッドにより閉じているという違いがあります。健全性評価精度の向上のためには、このような亀裂形状の違い等が機器の破損挙動に及ぼす影響を理解することが重要です。

私たちは、クラッドが破損挙動に及ぼす影響を調べるため、C(T)試験片と、クラッド下亀裂を含む3点曲げ試験片を用いた破壊試験を実施しました。その結果、図2に示すようにクラッド下亀裂を含む3点曲げ試験片の方が、C(T)試験片に比べて高い破壊靭性値が得られることを明らかにしました。この結果は、現在の健全性評価においてC(T)試験片で評価される破壊靭性が、想定するクラッド下亀裂に対して安全裕度があることを示すものです。

さらに本研究では、クラッド下亀裂の場合に破壊靭性値が高くなる原因を調べるため、有限要素法(FEM)解析を実施しました。図3に示したのは、FEM解析によって得られたクラッド下亀裂及びC(T)試験片の亀裂近傍における亀裂を開こうとする力(応力)の分布です。クラッド下亀裂の場合、C(T)試験片の亀裂に比べて応力が高い領域が小さくなっているために、破壊が生じにくくなっているということを明らかにしました。さらに、この応力解析結果に基づいてクラッド下亀裂に対する破壊靭性値を精度良く予測することに成功しました(図2)。この解析的な破壊靭性値の推定方法は、RPVのような大型構造物の破損予測への適用が期待される手法です。

クラッド以外にもRPVの破損挙動に影響を及ぼすと考えられる因子として、C(T)試験片とRPVにおける力の加わり方や亀裂形状(直線か半楕円か)の違い等があります。今後は、これらの影響についても破壊試験と解析の両面から明らかにしていきます。

本研究の一部は、原子力規制委員会原子力規制庁からの受託研究「平成28年度原子力施設等防災対策等委託費(原子力発電施設等安全性実証解析等(軽水炉照射材料健全性評価研究))事業」の成果です。

(下平 昌樹)