図1 飛翔体衝突試験とRC板構造の損傷状態
図2 応力波伝播によるRC板構造の裏面剥離損傷
東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえ、2013年に制定された新規制基準では、竜巻飛来物や航空機等の飛翔体が原子力施設に衝突する事象(飛翔体衝突)に係る規制が新設されました。これに対応するため、飛翔体衝突による建屋や機器等への影響を評価するための手法の整備が重要な課題となっています。このため、私たちは飛翔体衝突による建屋外壁の局部損傷に係る試験データを取得するとともに、建屋外壁の局部損傷評価に係る解析手法の整備に取り組んでいます。
これまでに、建屋外壁のような鉄筋コンクリート(RC)板構造の局部損傷評価には、衝突時に変形しない剛な飛翔体(剛飛翔体)を用いた垂直衝突による保守的な衝突試験に基づくものがほとんどでした。そこで本研究では、衝突時に航空機のように自身が変形する飛翔体(柔飛翔体)や、立地条件等による斜め方向からの衝突(斜め衝突)を想定し、より現実的な衝突条件である柔飛翔体や斜め衝突に対する飛翔体衝突試験データを取得し、局部損傷評価に係る解析手法の整備及び妥当性確認を行うことを目的としています。
まずは、飛翔体2種類(剛飛翔体及び柔飛翔体)、衝突角度2条件(0°:垂直衝突及び45°:斜め衝突)、RC板構造の板厚2種類(210 mm及び80 mm)をパラメータとしたRC板構造に対する飛翔体衝突試験を実施しました(図1(a))。飛翔体の種類や衝突角度の違いによるRC板構造の局部損傷状態の違いについて分析し、RC板構造の裏面では、垂直衝突の場合と比較して、斜め衝突では裏面の損傷状態が大幅に低減すること、及び、斜め衝突では垂直衝突と比べて貫入深さは深くなることが分かりました(図1(b))。
これらの原因として、貫入深さについては、飛翔体の先端形状が平坦型であることから、垂直衝突では飛翔体の先端がRC板構造に接触する面積が大きくなるのに対し、斜め衝突では飛翔体の先端が尖頭化し、接触する面積が小さくなることに起因しているものと考えられます。
また、裏面の損傷状態が大幅に低減したことについては、RC板構造の損傷状態の詳細調査を踏まえ、斜め衝突では衝突力のうちRC板構造に対して垂直な力(垂直力)のみが裏面剥離損傷に寄与しているものと考察しました(図2(a))。コンクリートの引張強度は一般的に圧縮強度の約1/10であり引張破壊が発生しやすく、裏面剥離損傷は、衝突による圧縮応力波が裏面の自由境界で引張応力波に反転することで生じる損傷であることが知られています。今回の試験結果の損傷状態では、最大せん断応力面は対称な円錐形状となっており、斜め衝突においても垂直衝突と同様に垂直力のみが裏面剥離損傷に寄与していること、斜め衝突では垂直衝突よりも垂直力が小さくなるため、垂直衝突では発生した裏面剥離が斜め衝突では発生しなかったことを確認することができました(図2(b))。
本研究では、RC板構造に対する飛翔体衝突試験を実施し、斜め衝突の場合には垂直衝突と比較して裏面の損傷状態が低減すること、及び、貫入深さは深くなる可能性があることが分かりました。今後は、得られた試験データを基に解析手法を整備し、その妥当性を確認するとともに、将来的には飛翔体衝突による影響評価解析手法の標準化を目指し取り組んでいきます。
(奥田 幸彦)