4-1 アクティブ法による核物質非破壊測定装置の開発

−3つの非破壊分析測定を実施できる世界初の装置Active-N−

図1 3つの非破壊分析技術の測定原理

図1 3つの非破壊分析技術の測定原理

中性子を照射して核分裂反応や捕獲反応などを引き起こし、中性子やガンマ線を発生させます。それらを3つの非破壊分析技術で測ることによって、測定が困難な使用済核燃料などを高精度に分析します。

 

図2 開発したActive-Nの概要図と写真

図2 開発したActive-Nの概要図と写真

Active-Nは、3つの非破壊分析を実施できる世界初の装置であり、今後、核セキュリティ分野での非破壊分析装置の開発などに用いられます。

 


原子力発電所で使用された核燃料を再処理する際には、燃料中のウラン(U)やプルトニウム(Pu)といった核物質の量や同位体比を測る必要があります。使用済核燃料は、核分裂によりできた様々な放射性物質を含むため組成が複雑で、大量の放射線を放ちます。このような使用済核燃料中の核物質の量や同位体比を測る非破壊分析技術は確立されていませんでした。

この課題を解決するための方法として、私たちは、1つのD-T中性子発生管で3つの非破壊分析技術による測定を実施できる世界初の装置Active-Nを開発しました。開発にあたりまず、核物質測定に使える非破壊分析技術の検討を行いました。図1に示すように、アクティブ法(外部から中性子を試料に照射し、核物質との核反応で誘発される中性子やガンマ線を測定する)である3つの分析技術の相補的な利用が有効であると分かりました。「ダイアウェイ時間差分析法(DDA)」では核分裂で発生した中性子を捉え、核分裂性核物質の総量を迅速かつ正確に測ることができます。「中性子共鳴透過分析法(NRTA)」では試料から透過する中性子を測定し、核物質の同位体比を得ることができます。しかしDDAやNRTAでは、試料に中性子をよく吸収するホウ素10やガドリニウム(Gd)などの中性子毒物が含まれていると、検出される中性子量が減少するため測定精度が劣化します。そこで、「即発ガンマ線分析法(PGA)」により中性子毒物が中性子を捕獲したときに放つガンマ線を測り、中性子毒物の量や種類を求め、DDAやNRTAの測定にフィードバックして測定精度を向上させます。このようにして3つの分析技術が相補的な役割を担うことで、使用済核燃料などの核物質が高精度に測定できます。

初期の検討において、3つの分析技術をただ組み合わせるだけでは、3つの測定が互いに干渉して悪影響を及ぼし、測定精度を大幅に低下させてしまうことが分かりました。つまり、3つの分析技術を組み合わせた装置を実現するためには、相互干渉を極力抑えつつ、測定精度に直結する信号雑音比を向上させなければなりません。そのため、まずは各測定の干渉を減らすためにシミュレーションによる検討を繰り返し、装置を構成する全ての機器の材質、形状、重量、配置、検出効率などを詳細に評価して、互いの測定に悪影響を及ぼさない装置仕様を決定しました。次に、信号雑音比を向上させるため、DDA:中性子照射によるガンマ線の発生を抑えたうえ、ガンマ線にほぼ感度がない(約10-7)検出器システム、PGA:2台の検出器を組み合わせることなどによって高速中性子の影響を抑えた検出器システム、NRTA:中性子とガンマ線を弁別することでガンマ線の影響をほとんど受けない(99%以上除去)検出器システムをそれぞれ開発しました。図2に開発したActive-Nを示します。こうして各分析技術の性能を十分に高めたことで、DDAでは使用済核燃料を模擬した試料中の核分裂性核物質の量を短時間で測定できること、PGAでは中性子毒物を短時間で測定できること、NRTAでは核物質の同位体比を測定できることを実証できました。

Active-Nによって得られる知見は、今後、核セキュリティ分野(計量管理)での非破壊分析装置の開発などにつながることが期待されます。

本研究は、文部科学省「核セキュリティ強化等推進事業費補助金」事業(2018年度〜2021年度)の一環として実施したものです。

(土屋 晴文)