4-8 核破砕反応で放出する中性子を測る

−核反応モデルによる予測精度向上に向けて−

図1 実験体系

図1 実験体系

FFAG加速器で作られた107 MeVの陽子ビームを真空容器内の標的に照射し、標的から放出する中性子のエネルギー分布を測定します。

 

図2 鉛標的からある角度方向に放出する中性子のエネルギー分布の実験値と3種類の核反応モデルによる解析値との比較

図2 鉛標的からある角度方向に放出する中性子のエネルギー分布の実験値と3種類の核反応モデルによる解析値との比較

現状の核反応モデルはいずれも、10 MeV以上で放出する中性子の予測に課題があることが分かりました。

 


原子力発電所の使用済燃料は、数万年という長期間にわたって放射性毒性を持ちます。この毒性を低減するシステムとして、加速器駆動核変換システム(ADS)が注目されています。ADSは、高エネルギーの陽子ビームを標的に照射することによって起こる核破砕反応で発生する中性子を利用して、放射性毒性の強いネプツニウムやアメリシウムなどの物質を毒性の弱い物質に変換します。ADSの設計では、核破砕反応で標的から様々な方向に放出する中性子のエネルギーと強度を精度良く予測する必要があります。

核破砕反応による中性子の挙動を予測するため、これまで様々な核反応モデルが開発されてきました。これらのモデルは、数百MeV以上の高いエネルギーで起こる核破砕反応で放出する中性子の挙動を高い精度で予測することができますが、エネルギーが低くなるほど予測精度が悪くなると考えられています。ところが現状では、100 MeV領域において実験データが不足しているため、核反応モデルの精度を十分に検証することができませんでした。そこで本研究では、このエネルギー領域で起こる核破砕反応に関するデータを実験によって取得し、核反応モデルの検証を行いました。

この実験では、京都大学複合原子力科学研究所の固定磁場強収束(FFAG)加速器を用いました。FFAG加速器で作られた107 MeVの陽子ビームを真空容器内の標的に照射し、標的から放出する中性子のエネルギー分布を、ビーム進行方向に対して幅広い放出角度で測定しました(図1)。標的には、ADSの設計で重要な鉄、鉛及びビスマスを用いました。測定で得られた中性子のエネルギー分布と核反応モデルで解析した値を比較した結果、現状の核反応モデルでは、10 MeV以上で放出する中性子の予測に課題があることが分かりました(図2)。

本研究で得られたデータや知見は、核反応モデルの予測精度向上に向けた貴重なデータとなり、ADSの研究開発のみならず陽子ビームを用いた加速器施設の設計にも貢献すると期待されます。

本成果は文部科学省受託研究「原子力システム研究開発事業(JPMXD0219214562)、研究課題名:FFAG陽子加速器を用いたADS用核データの実験的研究」において得られたものです。

(岩元 大樹)