7-1 大規模イベントを核・放射線テロから守る

−高速中性子線がどの方向から飛来しているかを特定する検出装置の開発−

図1 棒状検出器と散乱体を組み合わせた装置

図1 棒状検出器と散乱体を組み合わせた装置

中性子散乱体(ポリエチレン)の前面と背面にプラスチックシンチレーション検出器を設置し、線源に対して10°ずつ回転させながら測定を行いました。図は90°の方向へ向いている状態です。0°から90°の方向へ回転させると、前面の検出器では線源から見た立体角が大きくなっていくため、計数が増加していきます。一方背面の検出器は散乱体の影に隠れて計数が減少していきます。

 

図2 2つの検出器の測定結果の比較と計数の比

図2 2つの検出器の測定結果の比較と計数の比

回転角の増加に伴い、中性子の計数は、前面の検出器(■)では増加する一方で、背面の検出器(▲)は散乱体の影に隠れるため減少していきます。2つの検出器の比をとると()、回転角度に従い直線的に増え、これを利用すると、計数比から線源方向を推定できることが分かりました。

 


オリンピックに代表される大規模公共イベントや、大型の商業施設等において、核・放射性物質を用いたテロ行為等の発生を未然に防ぐことは、核セキュリティの課題の一つです。会場内部や周辺に、核・放射性物質を持ち込ませないように、また、仮に持ち込まれたとしても、迅速に検知し対処できるように、様々な放射線検出器を用いた装置の開発が進められています。

核物質や工業用放射線源の一部には中性子線を放出するものがあります。これらの中性子源は、高いエネルギーの中性子を多く放出します。これら高速中性子は透過力が高く、他の放射線に比べて遮蔽が難しいため、隠す方法が限られます。したがって、場面によってはこの高速中性子を検出する方法が核物質などの検知に有効である可能性があります。私たちの研究では、高速中性子線がどの方向から飛来しているかを素早く絞り込み、より迅速な対応につなげるための技術の開発に取り組んでいます。

中性子の検出器にはいくつか種類があり、それぞれ検出できるエネルギーの違いなどの特徴が異なります。例えば、代表的な中性子検出器であるヘリウム3(3He)検出器は熱中性子(エネルギーの低い中性子)の検出に優れており、高速中性子を測定するためには、減速材を使用してエネルギーを低くして検出する必要があります。そのため、中性子の飛来方向が分かりにくく、周囲の物質で散乱された中性子が検出されるなどするため、線源の探索にはあまり向いていません。一方で、プラスチックシンチレーション検出器は、熱中性子を検出することはできませんが高速中性子を直接検出することができます。この検出器を用いた場合、線源から直接飛来する中性子を検出し、周辺で散乱した中性子は検出されません。そのため、方向によって計数に差が生じるように検出器の形状を工夫することで、中性子が飛んで来た方向を推定することができます。私たちは、棒状のプラスチックシンチレーション検出器を用意し、中性子の散乱体を挟んで両側に2つの棒状検出器を設置した図1のような測定装置を採用しました。この装置を回転させていくと、両側の検出器で計数に差が生じ、その差を比較して中性子の飛来方向を推定することができると考えました。実際に10°ずつ回転させて中性子の測定を行ったところ、図2に示す測定結果を得ました。さらに2つの検出器の比を計算すると、10°〜80°の範囲では計数の比から飛来方向を直接推定できることが分かりました。この測定装置を用いることで、中性子線源の検知と方向の推定を同時に行うことができ、テロ目的で置かれた線源発見までの時間を短縮することが期待できます。

本研究は、文部科学省「核セキュリティ強化等推進事業費補助金」事業の一環として実施したものです。

(高橋 時音)