図12-1 様々な形状の標準体積線源
図12-2 体積試料及び検出器の配置条件と代表点の位置
図12-3 代表点法により得られた計数効率曲線と
標準体積線源の実測により得られた計測効率曲線の比較
放射線管理において環境試料中に含まれる放射能を迅速かつ正確に測定することは重要な課題です。また、加速器の利用進展に伴い、多種多様な試料(有限の大きさを有する体積試料)に対して放射化量を評価する必要性が生じています。このような目的の放射能測定は、通常Ge検出器を用いたγ線スペクトロメトリ法により行われます。放射能を定量するためには試料と検出器に固有の計数効率曲線を評価し、効率校正を行う必要があります。
これまで、効率校正は図12-1に示すような放射能が既知の標準体積線源を試料形状に応じて作製し、これを測定して行っていましたが、作製には熟練した技術が必要な上、使用後の線源処分の面でも問題がありました。一方、計算解析のみにより効率校正を行うと、十分な評価精度は得られません。
そこで、標準点状線源と計算解析手法を組合せ、計数効率曲線を評価する方法(代表点法)を開発しました。本方法は、(1)体積試料の「代表点」の位置(図12-2)を見いだす操作と、(2)標準点状線源を用いた代表点における一点校正の操作、の2段階に大別されます。(1)の操作では、検出器周辺の多数の点における点状線源に対する計数効率曲線をモンテカルロ法に基づくガンマ線輸送計算により求め、自己吸収がない場合の体積試料の計数効率曲線と形状及び絶対値が最も近い計数効率曲線が得られる最適校正位置(代表点)を選定します。(2)の操作では、代表点に標準点状線源を配置し、自己吸収がない場合の体積試料に相当する計数効率曲線を実測し、この結果に試料材質や試料容器による吸収効果の補正を加味することにより、目的とする計数効率曲線を求めます。
図12-3は円柱形のセメント体積線源の放射能評価に代表点法を適用し、従来法との比較により評価精度を検証した例です。このほか、種々形状、材質の試料について広く実験的検証をした結果、代表点法により、広いエネルギー範囲(20〜2000 keV)にわたる計数効率曲線を実用上十分な精度で決定可能であることが確認されました。
代表点法では、実際に標準点状線源を用いることで評価結果の信頼性が確保されます。また、代表点の位置及び吸収の補正係数は検出器内部の幾何学的条件に左右されにくいため、検出器内部の情報が厳密に得られない場合でも計数効率曲線を精度よく評価することが可能です。
本方法は様々な体積試料の放射能を非破壊的に評価するに当たり有効であり、放射性廃棄物の低減やコストの削減に貢献できます。