写真12-1 アラニン線量計(左)とホウ酸リチウム線量計(右)
図12-4 人体筋肉に対する中性子線及び
γ線吸収線量の測定値と計算値との比較
1999年に発生したJCO臨界事故のように、作業員が重度の放射線被ばくを受けた場合、直ちに緊急被ばく医療が行われます。その治療方針の決定に当たり、被ばく線量情報を迅速かつ正確に提供する必要があります。
私たちは、アラニン線量計とホウ酸リチウム線量計(写真12-1)に着目し、臨界事故時など高線量環境下における人体吸収線量計測技術の高度化に関する研究開発を進めてきました。今回、両線量計の組合せによる計測技術を個人線量計測に応用するため、過渡臨界実験装置(TRACY)で模擬した臨界事故状況下における線量計測実験とその計算機シミュレーションを行いました。実験では、人体模型(ファントム)に装着した両線量計により、人体筋肉に対する中性子線及びγ線の吸収線量を弁別して測定しました。一方、計算機シミュレーションでは、臨界事故時に放出される中性子線及びγ線を線量成分別に考慮したモンテカルロ計算を行いました。これら実験と計算に基づくファントム表面及び内部の線量分布の比較から、この簡便な線量計測技術が、緊急被ばく医療の遂行に十分な精度でもって線量情報を提供できることを確認しました(図12-4)。
この人体吸収線量計測技術は、臨界事故だけでなく放射線事故全般に、また平常時においても高線量率エリアの放射線管理に、広く適用することが可能です。