図12-5(左) JCDSを用いた線量評価に基づく照射条件決定の流れ
図12-6(右) 複数レーザー光による患者セッティング方法
悪性脳腫瘍等の治療法として期待されているホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy,BNCT)は、ガン細胞に選択的に集まるホウ素化合物を患者に投与し、患部に中性子を照射することによって、ホウ素(10B)と熱中性子が反応して放出されるα線とリチウム原子によってガン細胞を選択的に破壊する放射線治療です。近年では熱中性子よりも少しエネルギーの高い熱外中性子を照射することで、より深部にあるガンも治療できると注目されています。
熱外中性子ビームを使って精度の高いBNCTを可能にするため、線量評価コード“JCDS”と、“患者セッティングシステム”で構成される“医療照射支援システム”を開発・実用化しました。
熱外中性子ビーム照射を実現するためには、患者に付与される線量を評価する技術が不可欠でした。そこで患者の医療画像を基に計算モデルを作成し、中性子と光子の輸送計算によって患部及び周辺組織の線量を正確に評価できる線量評価コード“JCDS”を開発しました。図12-5はJCDSによる線量評価の流れを示しています。
JCDSの開発によって適切な照射条件を決定することが可能となりました。しかし実際に照射を実施するためには、この照射条件を忠実に履行しなければなりません。特に患者の位置精度はBNCTの照射精度に大きく影響を与えます。そこで複数のレーザー光を使ってJCDSによって同定された最適照射位置に患者を正確に位置合わせできる“患者セッティングシステム”を開発しました。図12-6はレーザー光による位置合わせ方法を示しています。
医療照射支援システムの開発においては、それまで独立していた線量評価とセッティング作業を一元化することで、BNCTの照射精度を向上できることに着目し、JCDSとセッティング装置を組合せて開発しました。これによりBNCTの照射計画立案から実際の照射、更には臨床研究に重要な事後線量評価までを総合的に支援する技術を確立しました。
医療照射支援システムの開発・実用化によって、研究用原子炉JRR-4で熱外中性子ビームによるBNCTが、2003年から開始されています。更に頭頚部ガンや肺の腫瘍などの脳腫瘍以外のガンに対する臨床研究も2004年から実施されています。
今後も原子炉技術を医療分野に応用するための技術開発を進め、難治ガン克服を目指す先端的医療研究を支援していきます。