図1-32 「もんじゅ」初臨界炉心配置図
図1-33 全炉心体系計算におけるエネルギー群縮約効果
図1-34 中性子束分布で見た縮約手法の違いによる断面積縮約効果の差
「もんじゅ」性能試験の測定データを有効利用して、現行設計手法の予測精度を検証評価し、設計余裕の合理化を図ることは、将来のFBR実用化に向けて重要な意義を持っています。この観点から、「もんじゅ」炉心の臨界性解析(実効増倍係数解析)については、これまでに各種検討が実施されて来ています。
一般に臨界性は、計算機資源の制約から拡散理論近似(等方散乱近似)計算により解析されますが、より厳密な輸送理論解析との比較による補正が必要となります。そこで、3次元ノード法Sn輸送計算コードNSHEXにより「もんじゅ」初臨界炉心(図1-32)の実効増倍係数解析を実施したところ、中性子エネルギーの離散化近似が粗い少数群断面積による計算(一種の近似計算であり高い計算機能力を必要としない)では、エネルギー群縮約効果(近似誤差)が無視できないことが判りました。
そこで、NSHEXコードにおける輸送断面積の扱いについて分析したところ、NSHEXではノード内の中性子束分布を多項式近似しているために、従来の縮約方法ではノード間の中性子漏えい量が保存されないことが判りました。これに基づき、従来の中性子カレント重み縮約に替わって、ノード間の中性子漏えい量が保存される新たな縮約手法を考案し、縮約断面積計算ルーチンとしてNSHEXコードに組み込みました。更に、検証計算により本縮約手法の有効性を確認しました。その結果、本手法によれば実効増倍係数の群縮約依存性が解消(図1-33)できるだけでなく、中性子の空間分布についても改善(図1-34)が見られ、NSHEXコードの新たな輸送断面積縮約方法として推奨し得ることが確認できました。
以上の成果は、今回「もんじゅ」全炉心体系を詳細に解析した結果、新たな知見として得られたものです。現在最新の輸送計算手法として、群縮約せず連続エネルギーで輸送計算を解くものも開発されていますが、「もんじゅ」全炉心のような大きな体系を解析する場合には計算機の性能などから未だ実用的とは言えず、従来計算手法の精度向上は今後も重要な課題といえます。本研究により、従来の輸送計算手法に対する解析精度向上の可能性を提示することができました。