1-16 多機能再処理プロセスを確立し分離元素を有効利用する

−ピリジン樹脂による先進核種分離プロセスの開発−

図1-39 3級ピリジン樹脂の基本構造

図1-39 3級ピリジン樹脂の基本構造

本研究では懸濁重合で作成した無担持型(白金族元素分離用)と、直径約60 μmのシリカビーズに担持した多孔質型樹脂を用いています。

図1-40 分離プロセスの概念図

図1-40 分離プロセスの概念図

各元素群への分離を3ステップの工程で行います。

図1-41 STEP-IIにおけるイオン交換分離クロマトグラム

ランタニドを含むFP群、3価アクチニド(Am、Cm)群、燃料要素群(Pu)の相互分離ができていることを表しています。

図1-42 STEP-IIIにおけるイオン交換クロマトグラム

図1-42 STEP-IIIにおけるイオン交換クロマトグラム

AmとCmの相互分離ができていることを表しています。

3級ピリジン樹脂によるイオン交換法を用いて、使用済燃料から(1)白金族元素群、(2)希土類元素を含む核分裂生成物(FP)群、(3)燃料要素であるウラン(U)及びプルトニウム(Pu)などの燃料要素群、(4)アメリシウム(Am)、(5)キュリウム(Cm)を系統的に分離するプロセスを開発しました。

本研究は、東工大との共同研究で行われました。

3級ピリジン樹脂(図1-39)は、弱塩基性陰イオン交換樹脂と窒素原子のソフトドナーという二つの役割を持ちます。本樹脂は、処理の際に問題となるリンや硫黄を含まず(Salt-Free)、また塩酸溶液系における耐放射線性が高いという特徴を有します。今回開発した分離プロセスは、大別して3つの工程より構成されます(図1-40)。

STEP-I:照射済燃料溶解液から白金族元素群を分離

STEP-II:FP+希土類元素群、Am+Cm群、U+Pu+Np群分離

STEP-III:Am+Cm群からのAmとCmを相互分離

はじめに、「常陽」で照射した高燃焼度燃料(約140 GWd/t)の混合酸化物(MOX)燃料を硝酸溶解後、約85 μg相当を分離プロセスに供しました。

STEP-Iでは燃料溶解液を希塩酸溶液に転換して無担持型の3級ピリジンイオン交換樹脂に通液することにより、アンチモン(Sb)と白金族元素であるルテニウム(Ru)を分離することに成功しました。

白金族元素FPやテクネチウム(Tc)は再処理工程やガラス固化工程の操作を大きく妨害するので、それらの前工程で白金族元素の分離が行えたことの意義は極めて大きいと考えられます。

STEP-IIでは、分離後溶液を濃塩酸溶液に転換して、シリカビーズ担持型3級ピリジンイオン交換樹脂に通液します。樹脂を通過する過程でそれぞれの元素群が分離し、はじめにランタニド(Ln)元素であるユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)等を含むFP群が分離され、次いで3価アクチニド(An)といわれるAm、Cmが分離されます(図1-41)。その後、溶液を希塩酸に変えると燃料要素であるPuが分離されます。

STEP-IIIでは、Am、Cm混合溶液を硝酸メタノール溶液に転換してSTEP-IIと同じ樹脂に通液し、それぞれAmとCmに相互分離することに成功しました(図1-42)。

本研究で得られた最終的なAm回収率は95 %を超え、Amに対する137Cs、155Eu及び243Cmの除染係数はそれぞれ3.9×104、1×105及び2.2×104で、一般的な分離目標とされる103を大きく上回る値となっています。一連の工程において、再処理対象である燃料成分元素の分離に加え、白金族元素FPの分離、AmとCmの相互分離を両立させた例はほかになく、今後は分離プロセスの工学的課題や分離元素の有効利用にも視野を広げ、先進的多機能再処理工程の確立に向けた研究開発を行っていく予定です。