図1-9 ナトリウム冷却炉の1次冷却系概念
図1-10 流れの可視化状況とエルボ出口近傍での流速分布
図1-11 ステンレス鋼管での固有振動モードと発生応力
実用化戦略調査研究で主概念として選定したナトリウム冷却炉では、システム簡素化のため主冷却系を2ループで構成しています(図1-9)。冷却系を2ループ化したことに伴い、1ループ当たりの流量増加に対応するため、1次冷却系の配管径は最大約1.3 m(「もんじゅ」の約1.5 倍)まで大型化し、管内流速も9 m/s台(「もんじゅ」の約2.6倍)に増加します。
ナトリウム冷却炉は、軽水炉と比べて高温・低圧条件で設計されることから、薄肉の配管を用います。この薄肉で大口径の配管が高流速条件で使用されるため、配管の曲がり部(エルボ)等で生じる流れの乱れに起因した振動(流動励起振動)による応力が配管健全性の観点から懸念され、冷却系2ループ化の成立性に関わる重要課題となっています。
そこで、1次冷却系で口径が最大となるホットレグ配管を1/3縮尺で模擬した水流動試験装置を用いて、エルボを含む配管系の流動及び振動特性に関するデータを取得しました。試験では、管内の流れ場を可視化できるアクリル管と、配管系の振動応答を模擬できるステンレス鋼管の2種類の試験体を用いました。なお、水とナトリウムの物性値の違いから、縮尺水試験では実機ナトリウム(550 ℃、流速 9.2 m/s)での流れ場と同等の条件を再現できないため、流れ場の支配因子となる管内流速と水温を試験パラメータに選定し、流動特性の試験条件に対する依存性を検討しました。
まず、アクリル管試験体を用いて、流動励起振動の主要因となるエルボ部での剥離域を可視化観察すると共に、管内の流速分布等を計測しました(図1-10)。剥離域の形成範囲や、平均流速で無次元化した流速分布は、流速や水温を変化させてもほぼ一定となり、流動条件に対する依存性がないことが分かりました。また、流れの乱 れは剥離域を含む領域が最大となることを確認しました。次に、ステンレス鋼管試験体を用いて配管系の固有振動モードを把握しました。また、流れの乱れによって発生する振動応力は、試験体の固有振動数に相当する成分で励起されることを確認しました(図1-11)。
上記の試験結果より、流れの乱れの特性や振動応力は、管内流速に依存することが明らかとなりました。そこで、実機と同等の流速条件の試験で取得した流れの乱れの特性を配管の縮尺比等で換算し、実機ホットレグ配管の振動応力を評価しました。その結果、振動によって発生する最大応力は、配管材の設計疲労限度以下となり、配管系の健全性を確保できる見通しを得ました。