図3-18 一様な負イオン生成を実現した10 A負イオン源
図3-19 負イオン源の磁場配位
図3-20 負イオンビーム強度
核融合プラズマを高エネルギー・高出力の中性粒子ビームで加熱する中性粒子入射装置(NBI)では、水素や重水素の負イオンから中性粒子ビームを生成します。しかし、JT-60等の核融合装置の大型負イオン源では、負イオンの生成が一様でなく、一部から発生したビームが発散して下流の機器に直接衝突していることが分かってきました。このため高出力・長パルス化に向けては、大面積から負イオンを一様に発生する技術開発が必要であり、私たちは、図3-18に示す10A負イオン源を用いて負イオン生成の一様性を改善するための研究を進めてきました。
負イオン源では、タングステンフィラメントを熱して放出される一次電子(〜数10 eV)を種火として、水素ガス(分子)を解離(水素原子生成)、イオン化してアーク放電プラズマを発生します。このプラズマ中に数100ミリグラムのセシウムを入れると、プラズマ中の水素原子やイオンが壁表面でセシウム(壁に付着)から電子をもらい負イオン化します(負イオンの表面生成)。従来の負イオン源では図3-19(a)の橙線で示す横磁場(磁気フィルター)を負イオン源内に形成し、磁気フィルターより上部は電子温度を比較的高く保ち積極的に水素の解離を促進する一方で、負イオンは高エネルギーを持つ一次電子との衝突で壊れやすいため、負イオン引出しのための電極近傍は負イオン生成に適した低電子温度(〜1 eV)を保つよう工夫されています。しかし最近の3次元電子軌道解析の結果、一次電子はこの磁気フィルター中をドリフトして一か所に集中し、その結果、プラズマ分布が不均一となることが分かりました。セシウムを添加して負イオンを表面で生成する場合には、このプラズマの偏りが、そのまま負イオン生成分布の一様性を悪化させる原因となっていたのです。
この知見をもとに、高温・高密度プラズマを一様に生成するように10 A負イオン源の磁場構造を大幅に改良しました。負イオン引き出し面を覆う磁気フィルターを廃して図3-19(b)の橙線で示すテントのような形状を持つ磁力線を負イオン源内に形成しました。その結果、従来の磁場構造では一か所に集中していた一次電子が負イオン源内で周回することが可能となりました。この改良により、引き出された負イオンビーム強度の偏差は16 %から8 %まで低下し、負イオン生成の一様性を大幅に改善することに成功しました(図3-20)。この成果は今後JT-60用負イオン源や、ITER用負イオン源に応用する予定です。