3-8 負イオンNBI装置の電極熱負荷の低減を目指して

−長パルスのビーム入射のための一歩−

写真3-1 JT-60U用負イオン源

写真3-1 JT-60U用負イオン源

最大エネルギー500 keV、ビーム電流22 Aの重水素の負イオンビームを生成します。

写真3-2 加速電極の排気口化

写真3-2 加速電極の排気口化

5つの電極セグメントの両サイドを排気口の電極にし、加速管の圧力を下げました。

図3-17 加速電極熱負荷のイオン源圧力依存性

 

図3-17 加速電極熱負荷のイオン源圧力依存性

加速電極への熱負荷のビーム加速パワーに対する比率を示します。通常は圧力0.3 Paで運転します。従来の電極に比べ、電子衝突による熱負荷を40%低減しました。

JT-60のプラズマ加熱装置である負イオン中性粒子入射加熱装置(NNBI)では、JT-60Uのプラズマ性能を長時間維持するために、パルス幅を設計値の10秒から30秒に伸長することが求められています。写真 3-1はJT-60U用負イオン源です。しかしながら、これまでは加速電極の冷却水温度が10秒運転で100 ℃近 くになることから、これ以上の長パルス運転を実現するためには、加速電極の熱負荷を低減することが必要でした。電極の熱負荷の原因は、負イオンビームの電 極衝突によるものと、負イオンビームと同じく加速される電子ビームによるものがあります。今回の研究では、このうち電子ビームに注目し、その熱負荷の低減 化を図りました。主たる電子ビームの発生源は、加速途中の負イオンが加速管内にある残留ガスと衝突した際に負イオンから剥離する電子です。このガスとの衝 突により発生する剥離電子は、イオン源内のガス圧力を下げることにより減らすことができますが、一方、大電流の負イオンビームを生成するためには、加速部 の上流側であるアーク放電室のガス圧力 を0.3Pa程度にする必要があります。そこで、今回、負イオンを 生成する圧力を一定にして加速部の圧力を減らすために、加速電極の一部に写真 3-2のように5枚のセグメントの両サイドに排気口を設けた構造に加速部を変更しました。この際、排気口から負イオンビームを引き出さ ないために、上流側のプラズマ電極はマスクをしまし た 。 図 3- 17に 加速電極熱負荷のイオン源圧力依存性を示します。この図でイオン源圧力とともに増加している熱負荷は、加速部で発生した剥離電子によるものと考えられま す。一方、イオン源圧力に依存しない部分は、負イオンが電極に直接衝突するための熱負荷と考えております。排気口化により加速部の圧力を下げることによっ て、剥離電子の発生が抑制され、その結果、電子ビーム衝突による熱負荷を40%低減することができました。これにより、電極の冷却水温度上昇を10秒以上 の定常状態において35℃程度に抑制しました。そして、2イオン源のうち1イオン源でビームパルス幅を25秒まで伸ばすことができました。今後は、負イオンビームの電極衝突に関しても低減化の研究を進め、2イオン源を用いて、よ り高いパワー、長パルスのビーム入射を目指していきます。