図3-14 核融合用高出力ミリ波発生装置ジャイロトロンの内部構造図
図3-15 プレプログラミングによってビーム電流制御をした場合と
しない場合のビーム電流の比較
図3-16 1000秒間の発振動作をさせたときの加速電圧、
ビーム電流、高周波出力、放電光、真空度、発振出力の各波形
国際熱核融合実験炉ITER用に開発したプラズマ加熱・電流駆動用高出力ミリ波発生装置「ジャイロトロン」の動作時間を、ITERで計画されている標準運転時間の400秒を大きく上回る1000秒まで延ばすことに世界で初めて成功し、長パルス動作を行うための手法を確立しました。
ジャイロトロン(図3-14)は、相対論的共鳴メーザーの原理を応用した電子発振管で、100 GHz帯のミリ波領域の周波数を高出力、高効率で発生させることができる特徴を備えています。ITERでは1 MW出力の170 GHzジャイロトロンを24本使用する予定であり、そのための開発が原子力機構を中心に行われています。その発振のしくみは、熱陰極(カソード)から約80 kVの電圧で引き出された筒状の回転電子ビームが、磁力線に巻き付きながら円筒状の空胴共振器に導かれ、超伝導コイルで発生した磁場に対応するサイクロトロン共鳴を行い、電子ビームの回転運動エネルギーが電磁波のエネルギーに変換されるというものです。
電子ビームによる電流が発振出力や発振安定性に大きな役割を果たしていますが、これまでのジャイロトロンでは、電子ビームの発生部である熱陰極がビーム引き出し動作開始と同時に、電子ビームの運動エネルギーに熱エネルギーが取られるため冷えていき、長パルス動作ではビーム電流が減少してしまいました(図3-15)。このため時間の経過とともに発振出力が低下するだけでなく、発振の条件を満たさなくなり、動作時間が100秒程度に制限されてきました。そこで、熱陰極の温度がビームの引き出しによって変化しないように、冷え方と温度の上がり方を熱容量や形状などから予測し、熱陰極に加えるヒーター電圧をプレプログラミングによって最適に制御しました。その結果、安定なビーム電流を実現し、約0.6 MWの安定な出力で、ITERで計画されている標準運転時間の400秒を大きく上回る1000秒間の連続出力を実現しました(図3-16)。ビーム電流をプレプログラミングによって制御して長パルス動作を行う方法は、1 MW相当まで出力を増加させても用いることができ、今回の1000秒間の発振を達成した成果は、ITER用ジャイロトロン開発におけるハードルの1つをクリアしたものです。今後更に出力と効率を増加させるよう高性能ジャイロトロンの開発と実験に取り組んでいます。