4 量子ビーム応用研究

4-1 量子ビームテクノロジーの研究開発を先導する

図4-1 原子力機構における量子ビーム施設群
拡大図(409KB)

図4-1 原子力機構における量子ビーム施設群

J-PARC:大強度陽子加速器施設(2008年度供用開始予定;図は施設全体のうちの物質・生命科学実験施設)、JRR-3:3号研究炉、TIARA:高崎イオン照射研究施設、SPring-8:大型放射光施設

 

図4-2 量子ビームと物質との相互作用、及びそれらの用途

図4-2 量子ビームと物質との相互作用、及びそれらの用途

量子ビームと物質との各種の相互作用が、原子力機構においてどのような手段に用いられているかを示しています(RBS:ラザフォード後方散乱、PIXE:粒子誘起X線放出、XAFS:X線吸収微細構造、BNCT:ホウ素中性子捕捉療法)。

 

図4-3 量子ビームテクノロジーによる重点分野への貢献

図4-3 量子ビームテクノロジーによる重点分野への貢献

各分野の研究開発項目の下に、量子ビームの「観る」「創る」「治す」のうちのどの機能が利用されているか、また、どの量子ビーム(図中の記号は図4-2と同じ)が使われているかを示しています。

図4-4 建設が進むJ-PARCと、物質・生命科学実験施設に設置するため製作中の中性子実験装置
拡大図(432KB)

図4-4 建設が進むJ-PARCと、物質・生命科学実験施設に
設置するため製作中の中性子実験装置


私たちは、原子炉からの中性子ビーム、加速器からのイオンビームや電子線、RI(放射性同位元素)からのガンマ線、テーブルトップ型高出力レーザー装置からの高強度極短パルスレーザー、大型放射光施設からの放射光を有機的に利用して量子ビームテクノロジーの研究開発を進めています(図4-1)。

これらの量子ビームは粒子としての性質(粒子性)と波としての性質(波動性)を併せ持っています。波動性に注目したとき、ビームのエネルギーにもよりますが、これらの量子の波長は大体ナノメートルあるいはそれ以下になります。そのため、1個1個の量子が物質の一部に対して及ぼす作用1回あたりの範囲もその程度のサイズになります。物質中の原子と隣の原子との間の距離も大体ナノメートル以下なので、量子ビームを使って物質中の原子の配列、電子の状態、元素の種類などを観測することができます。また、原子と原子との間の結合を切る(分子鎖切断)ことによって、極めて微細な加工や特殊な化学反応の開始手段として利用することもできます(図4-2)。

このように量子ビームは、「ナノの目」で「観る」、また「ナノの手」で「創る」有力な手段と言うことができます。原子力機構では、この量子ビームの機能を駆使し、科学技術基本計画で「重点推進4分野」とされたライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、また「推進分野」のひとつであるエネルギー、の各分野の重要課題を中心に研究開発を進めています(図4-3)。

一方、我が国では「切らずに治す」がん治療法として陽子や重粒子ビーム照射が発展してきています。原子力機構では、高強度の極短パルスレーザーを物質に入射したときに局所的に発生する極めて強い電場を利用して陽子を加速することができることに着目した基礎研究を進めています。これにより、治療装置の小型化・低廉化への応用が期待されます(図4-2,図4-3)。

以上の量子ビームの中で、特に中性子に関しては高強度のパルスビームへの期待が高まっており、世界的に新しい施設の建設が進んでいます。原子力機構では、高エネルギー加速器研究機構と共同で、2008年度の供用開始を目指し、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設を進めるとともに、そこで用いられる中性子利用実験装置の製作を行っています(図4-4)。これは、陽子をターゲットに照射することによって得られる中性子などの2次粒子を世界最高レベルの強度で発生させ、物質科学、生命科学、素粒子物理学などの科学技術・学術から産業応用まで幅広い分野に利用することを目的としています。この施設の完成によって、中性子等の量子ビーム利用の更なる拡大発展が期待できます。