3-15 バイオ技術を用いたトリチウム除去法を開発

−森林土壌からトリチウム酸化菌の培養に成功−

図3-32 従来方式と新方式のトリチウム除去設備概念の比較
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図3-32 従来方式と新方式のトリチウム除去設備概念の比較

従来方式は、常時高温触媒運転が必要で設備費・運転維持費が大となり、触媒交換時に廃棄物が発生します。新方式は、微生物利用により常温運転可能で、設備費は約1/10となります。灰化処理で廃棄物減容が可能です。

図3-33 代表的なトリチウム酸化活性菌のSEM観察写真

図3-33 代表的なトリチウム酸化活性菌のSEM観察写真

左:10000倍、右:2000倍で放線菌の仲間です。

図3-34 カセット状のバイオトリチウム除去装置

図3-34 カセット状のバイオトリチウム除去装置

カセット内のフィルターにトリチウム酸化活性菌を30 ℃ で10日培養し固定しました。良好な除去性能を確認しました。

核融合炉は、重水素とトリチウムを燃料として用います。トリチウムは、弱いβ線を出してHeに崩壊し約12年で半減する放射性物質で、水素と同様に物質中を移動しやすい性質を持つことから、多重に閉じ込めて安全に取り扱います。ITER等核融合炉施設では、常時閉じ込めの健全性を確保することはもとより、万一建屋内に漏れたトリチウムも、高温の貴金属触媒により酸化し、水分として吸着除去することで、環境への漏洩を防ぎます。このトリチウム除去設備は十分な実績がありますが、高価な貴金属触媒を常時高温に維持する必要があり(図3-32)、より効率的な設備の開発を進めてきました。

本研究では、環境中の水素ガスが土壌に一般に棲息する微生物によって常温で酸化され、水へ変換されていることを解明した茨城大学(一政祐輔教授)の成果に着目し、従来のトリチウム除去装置に替わる新しい技術として、「微生物を利用して漏洩したトリチウムを酸化し効率的に除去すること」に世界で初めて成功しました。

従来、微生物は発酵工業、食品、医薬品工業などで利用されてきましたが、大気濃度の水素の酸化を速い反応速度で行う目的に、微生物の特殊な能力を使うという画期的な発想に取り組み、水素の酸化能力の高い菌(図3-33)を森林から探索・培養すること、微生物が活発に活動できる条件を探し出すことに成功しました。この成果をもとに製作したバイオ・トリチウム除去実験装置(図3-34)を、原子力機構のトリチウム安全性試験装置に接続してトリチウム除去試験を行ったところ、触媒方式と同様にトリチウムを酸化(水に変換)・除去することができ、トリチウム除去効率としても、多段化による系統構成の改善等でITERのトリチウム除去装置の効率(99 %)を見通せる値(>85 %)が得られました。また、代表菌株を低温で1年保存した後でも、初期の除去効率の70 %を維持できることを確認し、新しいトリチウム除去装置への適用性を見いだしました。この技術が実用化されれば、高温の貴金属触媒が不要となり、製作及び運転コストが低減できるほか、触媒交換による廃棄物を最小限度に抑えられる可能性があります。今後、実用化に向け耐久性試験を実施すると共に、トリチウム以外のガス処理にも微生物を適用する研究開発を進める予定です。