図3-30 核融合材料中性子照射施設の構成
図3-31 高周波四重極加速器(RFQ)モックアップモジュールの外観写真
核融合炉実証炉の開発には、14 MeVの中性子による核融合炉材料の健全性評価が必要不可欠です。このためにIEA(国際エネルギー機関)の国際協力のもと日本、米国、欧州連合及びロシアが共同でInternational Fusion Materials Irradiation Facility(IFMIF)計画を進めています。IFMIFでは重陽子(d)とリチウム原子(Li)との反応でつくられる中性子を用います。このためには重陽子イオンビームを加速し、液体リチウムに入射する加速器(図3-30)の実現が鍵です。この加速器は125 mAの2つのビームラインを用いて加速します。しかも定常運転が要求されることから、ライナックの分野では世界最大電流における初の試みです。
加速器は100 keV出力の入射器、100 keV-5 MeVまで加速する高周波四重極加速器(RFQ)及び5 MeV-40 MeVまで加速するドリフト・チューブ・リニアックから構成されます。私たちは、この構成の中で定常運転・大電流加速の実現に向けて克服する課題が最も多いRFQの開発研究を行っています。
このRFQでは定常運転で125 mAの大電流を達成するために運転周波数として、低周波数の175 MHzを用いる予定です。この周波数ではRFQ軸長さが世界最長の12.5m必要となり、RFQの高周波特性(各キャビティのパワー・バランスと位相差)に高い精度が要求されます。
今回、高精度の高周波特性を確立するために実機大寸法のRFQモックアップモジュールによる高周波特性評価を行いました(図3-31)。特に重要な要素は、RFQに高周波電力を入射するためのアンテナです。アンテナの挿入による位相差の乱れを3次元コードで解析しそれを基に製作することで数度以内に抑制することに成功しました。更にこの小型アンテナをRFQ軸に対称に多段に配置して、パワー・バランスの乱れを抑制すると共に、定常化運転に必要不可欠な耐電圧緩和を図りました。これらに加え12.5 m軸長のRFQ製作誤差やアンテナの設置誤差によるパワー・バランスの乱れを調整するために、スラグ・チューナーを試作し、175 MHzRFQのパワー・バランス制御の基礎技術を確立しました。これらの結果、世界に先駆けて175 MHzにおける高精度な高周波特性を備えた実機用RFQ開発に着手できるめどをつけました。