図3-28 中性子弾性反跳粒子検出法原理
図3-29 JT-60プラズマ対向壁中の軽水素深さ分布
核融合実験装置のプラズマ対向壁表面はプラズマとの相互作用によって削られ、その塵が再び表面に堆積層を形成します。この再堆積層には、燃料である重水素やトリチウム等の水素同位体が含まれており、その厚さは、100 μm以上となる場所もあります。プラズマ制御やトリチウム安全管理の立場から、それらの蓄積量は正しく評価しなければなりません。表面領域の分析には様々な方法が利用できますが、深さ100〜1000 μm領域の水素同位体を直接測定するのは困難でした。
本研究では、この深さ領域の水素同位体深さ分布を、D+T反応で生成される14 MeVの高速中性子を使って測定する手法、中性子弾性反跳粒子検出法、を開発しました。この手法は、原理的にはイオンビーム分析法の一つである弾性反跳粒子検出法(入射粒子と標的水素の弾性散乱を利用する)と同様ですが、中性子ビームを使用する点が異なります。また、他の利点として、ビーム照射による標的水素の減衰が無視できるほど小さいことなども挙げられます。これは、中性子が電荷を持たないので、電子的相互作用に起因する試料母材へのエネルギー付与がなく、核的相互作用のみで反応するためです。
分析手順は、まず、DT中性子源からの中性子ビームを試料へ照射し、弾き出された高速荷電粒子のエネルギースペクトルを計測します。一方で、モンテカルロ法を使った計算から、実験体系の幾何学的な配置や標的粒子の輸送を考慮した応答関数を求めます。そして、この応答関数を基に、エネルギースペクトルを数値処理することによって、深さ分布を求めます(図3-28)。
例として、DD放電実験で使用されたJT-60の内側及び外側バッフル板の分析を行いました。その結果、表面から800 μmの深部にわたって軽水素深さ分布を得ることができ、分布には構造があることが明らかになりました(図3-29)。
今後、重水素やトリチウムへ分析対象を拡張し、核融合炉関連材料分析への適用範囲を広げる予定です。