表3-1 各材料の水素密度
図3-26 核融合炉の断面図と1次元計算モデル
図3-27 様々な遮へい材による高速中性子の減衰
原子力分野では従来より薄く高性能な中性子遮へい材料に対する潜在的需要があります。特に核融合分野においては、アスペクト比(プラズマの大半径/小半径)を小さくすることにより将来の核融合炉の経済性を高めることを検討しています。磁場閉じ込め型の核融合炉においては磁場を発生するトロイダル磁場コイル(TFC)などを、プラズマ中でDT核反応により発生する中性子(エネルギー〜14 MeV)から保護する必要があり、高性能な中性子遮へい材を必要としています。
今回、ポリエチレンや水よりも水素含有密度が高い金属水素化物や水素化ホウ素化合物(ボロハイドライド)に着目し、それらを用いたトカマク型核融合炉の遮へい評価を行いました。表3-1に各材料の特性及び水素密度を示します。マグネシウムボロハイドライド(Mg(BH4)2)の水素密度(13.2×1028/m3)は、一般的な中性子の遮へい材であるポリエチレン(7.7×1028/m3)や水に比べて、1.7倍以上の水素密度があります。図3-26に核融合装置の断面図及び今回の計算に用いた一次元の計算モデルを示します。プラズマの外側の真空容器とブランケットの間に厚さ0.7 mの遮へい材料を設置し中性子輸送計算により遮へい能力を評価しました。
図3-27に様々な遮へい材における高速中性子の減衰を示します。厚さ0.7 mにおける中性子束が小さいほど遮へい性能が高いことを示しています。表3-1の材料に加え、一般的に遮へい材として用いられている、ステンレス(SS316L)と水(H2O)を組み合わせた材料(SS+H2O)の遮へい性能も評価しました。Mg(BH4)2やチタンハイドライド(TiH2)を遮へい材として用いた場合、ステンレス+水の組み合わせより20 %以上、遮へい材を薄くできることを明らかにし、コンパクトな核融合炉の設計が可能となることが分かりました。更にMg(BH4)2については、単体の使用ではガンマ線の遮へい性能が低いが、ステンレスなどの金属材料との混合により、ガンマ線の遮へい性能が向上することが明らかとなりました。
このようにポリエチレンや水よりも水素含有密度が高い水素吸蔵金属を中性子遮へい材に応用することにより、従来考えていた遮へい材厚みを20 %以上薄くできることが分かり、核融合炉の経済性の向上に必要なコンパクト化に大きく寄与できるものと考えております。