3-11 高性能超伝導コイルを実現する新型ステンレス鋼

−ITER中心ソレノイド用超伝導導体のコンジット材料開発−

図3-24 ITER中心ソレノイド(CS)を模擬して製作されたモデル・コイル(左)とコイル断面の模式図(中央)。右側は、超伝導導体の構造
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図3-24 ITER中心ソレノイド(CS)を模擬して製作された
モデル・コイル(左)とコイル断面の模式図(中央)、右側は、超伝導導体の構造

CSでは、超伝導導体の長さは約900 mとなり、導体はコイル形状に巻線加工された後、熱処理炉で、650 ℃、240時間の熱処理が施され、高性能超伝導物質であるニオブ3スズ(Nb3Sn)を生成させます。

図3-25 CS実機サイズ矩形コンジットの外観写真

図3-25 CS実機サイズ矩形コンジットの外観写真

寸法検査の結果、ITER要求寸法精度を満たしました。コンジットに超伝導ケーブルが引き込まれた後、コンジットは49mm角に圧縮成型されます。

国際熱核融合実験炉(ITER)の中心ソレノイド(CS)は、超伝導素線と銅線を合計864本束ねたケーブルを、矩形の金属保護管(コンジット)に挿入した導体(長さ約900 m)を使用します(図3-24)。このコンジット材料として、新しいステンレス鋼を開発しました。

超伝導物質は脆いため、導体をコイル形状に巻線加工した後、650 ℃、240時間の熱処理を行い、ニオブとスズを化合させて超伝導物質(Nb3Sn)を生成することが必要です。このような熱処理後においても、コンジットは高い強度と粘り(靭性)を有する必要がありますが、一般のステンレス鋼は、熱処理により靭性が劣化するので、使用できません。またCSでは、電磁力による変形を押さえ込むために、ステンレス製構造物を使ってコイルを室温で上下方向から締め付けますが、冷却中の熱収縮により圧縮力が緩まないように、コンジットにはステンレス鋼よりも小さい熱収縮率特性が要求されます。

これまでに原子力機構が開発したステンレス鋼JK2は、強度(耐力:1000 MPa)、熱収縮率(一般ステンレス鋼の2/3)の点で、CS導体用コンジット材に適していましたが、熱処理による靭性の劣化を改善する必要がありました。

この問題を解決する一つのアイデアとして、今回、ホウ素を添加すると共に炭素、窒素量を下げることにより熱処理時の結晶粒界への析出物を低減し、靭性の改善を図ることにしました。このアイデアを検証するため、化学成分を変化させたサンプルを製作し、4 Kで機械試験を実施しました。その結果、低炭素(0.03 %以下)、低窒素(0.2 %以下)とし、ホウ素(10−40 ppm)を添加することにより、破壊靭性値を2倍以上に高めることに成功し、ITERが要求する靱性を達成しました。本研究では、原子力機構ならではの高度な分析技術として、研究炉を用いたα線フィッション・トラック法を活用し、ppmレベルのホウ素の材料中の挙動観察を行ない、ホウ素添加量の最適化に役立てました。本材料を用いた、実機サイズのコンジットの試作では、ITER要求仕様を満足する寸法精度(外形公差:+/−0.2 mm)が得られました(図3-25)。

このような成果により、国際協力プロジェクトであるITERにおいて、コアとなる超伝導コイルに原子力機構が開発した改良型JK2が使用されることになりました。今後、ITERでの採用実績をベースとして、核融合以外の低温構造材料への活用が期待できます。