5-2 核燃料施設でのリスク情報の活用をめざして

−MOX燃料加工施設のPSA手法の整備−

図5-4 MOX燃料加工施設のPSA実施手順の概要と評価例
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図5-4 MOX燃料加工施設のPSA実施手順の概要と評価例

概略的なPSAでは、潜在的な異常事象の候補の見落としを避けるため、I )対象とする施設全体から環境に影響を及ぼす事故の原因になり得る異常事象の候補をできるだけ多く見つけ出し、II )次にその中から、リスク上重要と考えられる事故に進展する可能性のある異常事象を頻度と影響の大きさの2次元の指標の組合せで表すリスクマトリックスを用いて選別するという2つのステップで行います。詳細なPSAでは、III )の事故シナリオの分析で、異常事象の発生条件、発生した異常事象の進展状況を分析し、フォールトツリー(FT)及びイベントツリー(ET)で表します。IV )発生頻度評価では、シナリオ分析で作成したFT、ETを基に放射性物質放出の発生確率を計算します。V )の事故影響評価では、五因子法を用いて放射性物質の環境への移行量を評価します。五因子法は、放射性物質が環境へ移行する過程を五段階に分けて考慮し、放出量はそれぞれの通過割合を5つの因子の積として求める手法です。

PSAは、原子力施設における安全確保の対策について、その効果や影響を体系的かつ定量的に評価することにより、様々な意思決定を安全上の重要度を考慮して合理的に行うための有力な参考情報を与えるものであり、我が国を含め各国で手法の整備と活用が進められています。しかし、これまでのPSA研究は、主として原子炉施設を対象に進められており、MOX燃料加工施設を含む核燃料サイクル施設に対するPSA実施手順は、再処理施設の一部の工程を対象としたPSA実施例が公開されているものの十分に成熟した段階にはありません。旧原研では、2001年度からの5カ年計画で経済産業省原子力・安全保安院より「MOX燃料加工施設安全技術調査等(確率論的安全評価等調査)」を受託し、MOX燃料加工施設を対象としたPSA手法を開発しました。

核燃料サイクル施設では、原子炉施設とは異なり核燃料などの放射性物質が各工程や保管箇所等に分散して存在し、多様な事故が想定されます。このため核燃料サイクル施設のPSAでは、施設全体から抜け落ちなく潜在的な異常事象(異常事象候補と呼ぶ)を同定し(網羅性)、数多くの異常事象候補の中から、有意な数の事象を選別し(効率性)、詳細な評価を行う(精度の確保)ような手法開発が必要でした。

開発したPSA実施手順は、図5-4に示すように「概略的なPSA」及び「より詳細なPSA」の5つのステップから成る2段階で構成されます。「概略的なPSA」においてハザード分析により抽出し、リスクマトリックスをもとに選別したリスク上重要な異常事象を対象に「より詳細なPSA」では、原子炉施設と同様な手法による事故シナリオ分析、発生頻度評価に加え事故影響評価を行います。

さらに検討したPSA実施手順に従い、モデルプラント全体を対象に、一連の分析を実施し、発生頻度及び放射性物質放出量の評価結果からモデルプラントのリスクプロファイル図を作成して、リスク上重要な事故シナリオ、設備・機器を同定しました。これにより、手順の有用性が確認できました。