図5-5 NSRRにおけるパルス照射実験
図5-6 被覆管の腐食量と限界性能の関係
より多くのエネルギーを取り出すために原子炉燃料の使用期間を延ばすことを高燃焼度化と呼びます。高燃焼度化は資源の有効活用などの理由から世界各国で推進されていますが、一方で、燃焼と共に被覆管の腐食や燃料ペレット内での核分裂生成物の蓄積が進むため、高い燃焼度に達した燃料で事故が起こった場合の安全性についても十分な検討が必要です。そこでNSRRでは、発電所で長期間使用した燃料を対象に反応度事故を模擬した出力急昇実験を行い、燃料の挙動及び破損メカニズムを解明すると共に、破損が起こる条件を定量化しています(図5-5)。
これまでの研究で、高燃焼度燃料では、腐食により脆化した被覆管が出力急昇時の燃料ペレットの熱膨張により押し拡げられ、歪みに耐えられずに破損することが分かりました。燃料破損条件を表す指標としては、破損に至る時点での熱量(エンタルピー)を用います。様々な条件で行った実験から、燃焼度が高いほど低いエンタルピーで破損するというデータを得ました。この成果は、我が国の原子炉の安全評価を行うための基準に反映されています。
現行の基準は従来の燃料に関するデータに基づいていますが、近年、より高い耐食性を備えた新型被覆管が開発され、既に実用化に至りました。新型被覆管を備えた燃料では、同じ燃焼度なら従来型よりも腐食が少ないため、より高いエンタルピーに耐えられます。最近の実験結果は、新型被覆燃料が現行の安全基準に対して十分な安全余裕を持つことを示しました。図5-6に、被覆管の腐食の程度を表す外面酸化膜厚さと破損時エンタルピーの関係を示します。燃焼度と破損時エンタルピーとの間に単純な関係は成立しませんが、酸化膜が厚くなると破損時エンタルピーが低下する傾向が明確に示されています。つまり、酸化膜厚さは高燃焼度燃料が反応度事故に対してどれだけ安全余裕を持つかを示す指標と言えます。
現在、さらなる高燃焼度化、プルトニウムの本格的利用及び燃料ペレット・被覆管の改良が並行して進められています。このような変化に柔軟に対応した安全評価手法を提案するため、実験・解析を通して現象の本質を解明した上で、最適な評価指標を抽出すべく研究を進めています。
なお、燃焼度78−79 GWd/tの燃料に関するデータは経済産業省原子力安全・保安院からの受託研究「燃料等安全高度化対策委託(高度化軽水炉燃料安全技術調査)」の成果の一部です。