図5-17 横型熱交換器を用いたPCCSの概念図
図5-18 熱交換器の上部(左)と下部(右)の流れ
図5-19 熱交換器伝熱管内部の蒸気の重量割合(クオリティ)
軽水炉の格納容器には、炉心が重大な損傷を受けても放射性物質が環境に放出されないように閉じこめる働きがあります。このため、事故時に格納容器内に大量の蒸気が発生し続けた場合にも、格納容器に設置されているポンプによる冷却系が働いて格納容器内の圧力が高くならない設計となっています。しかし、万一、ポンプが作動しなかった場合のバックアップシステムはありませんでした。このため、自然の力を用いて格納容器を守る静的格納容器冷却系(PCCS図5-17)が考案されました。PCCSは圧力の差を用いて格納容器内の蒸気を熱交換器に導き、そこで格納容器外の水で冷やして蒸気を凝縮することにより、格納容器内部の圧力上昇を防ぎます。私たちは、横型の熱交換器を使った新型のPCCSを提案し、性能評価を行いました。
横型の熱交換器を構成する多数の伝熱管が均一に蒸気を凝縮させることを実物大の実験により確認しました。伝熱管毎の蒸気の凝縮量に大きな差があると、一部の蒸気が凝縮することなく熱交換器を通過しやすくなるために、熱交換器の性能が十分に発揮できなくなる可能性があります。一方で、熱交換器の外側では冷却水が沸騰し、上に向かうほど蒸気の割合が増えて熱交換器の上部と下部とでは異なった流れとなります(図5-18)。そこで、このような流れの違いが伝熱管内の蒸気の凝縮量に与える影響を伝熱管内外の蒸気や水の温度、伝熱管の表面温度から調べました。その結果、伝熱管の外側の流れは大きく異なりますが、伝熱管内側の熱特性が変わらないため、蒸気の凝縮量は伝熱管の位置によらず均一で安定した除熱ができることを明らかにしました(図5-19)。
こうした実験から得られた知見と、その知見に基づいた解析とを組合せることで、PCCS用横型熱交換器が所定の要求性能を持つことを確認しました。横型熱交換器を用いたPCCSは、現在、出番を待っています。