5-7 水蒸気爆発のリスクを評価する

−溶融炉心/冷却材相互作用のシミュレーション−

図5-14 軽水炉のシビアアクシデントにおける水蒸気爆発

図5-14 軽水炉のシビアアクシデントにおける水蒸気爆発

炉心が溶融、落下し、原子炉容器内又は格納容器内にたまった冷却水中に落下すると、水蒸気爆発が発生する可能性があります。

図5-15 JASMINEコードによる粗混合過程のシミュレーション

図5-15 JASMINEコードによる粗混合過程のシミュレーション

溶融炉心が落下、水中で分裂・混合する様子。水とよく混合し、未固化のものが爆発に寄与します。

図5-16 JASMINEコードによる爆発過程のシミュレーション

図5-16 JASMINEコードによる爆発過程のシミュレーション

粗混合計算の結果(図5-15でt=1.5 sの状態)を初期条件とし、プール底付近で圧力波によるトリガリングを仮定したときの水蒸気爆発における衝撃波の成長。このようなシミュレーションで構造物への負荷を評価します。

水蒸気爆発は、高温の融体(溶融金属など)が水中に落下するときに急激に高圧の水蒸気が発生する現象です。原子炉のシビアアクシデント(炉心が溶融するような事故、米国スリーマイル島事故がその一例)の際に溶融した炉心が冷却水中に落下すると、水蒸気爆発が発生する可能性があります。(図5-14)その衝撃により格納容器が破損すると放射性物質が環境に放出されます。水蒸気爆発は放射性物質の大規模放出に至るシナリオのひとつとして重要視され、長年研究されてきました。現在では確率論的安全評価(PSA)により発生頻度が極めて低く、リスク(格納容器破損確率と破損時の公衆への放射線影響の積)への寄与は小さいと評価されていますが、その評価の不確かさの低減が課題でした。

これまでに多くの実験によりメカニズムの解明や負荷(衝撃力)の測定が行われましたが、実験と実機ではスケールや材料の違いがあり、実験による知見を実機の安全評価に適用するには、このような違いを橋渡しする何らかのモデルが必要です。このような目的のため、私たちは水蒸気爆発シミュレーションコードJASMINEを開発しました。また、これを用いて、事故時のリスク評価に必要な、水蒸気爆発による格納容器破損確率の評価を行いました。

図5-15及び図5-16は、JASMINEコードによる水蒸気爆発解析の一例です。水蒸気爆発では、溶融炉心が水中で分裂し、水や水蒸気と混合する「粗混合」過程(図5-15)を経て、数ミリ秒の短時間に急激な水蒸気発生と高圧をもたらす「爆発」(図5-16)に至ります。JASMINEコードでは、従来から原子炉冷却系の解析などに用いられてきた混相流解析の手法を拡張してこの現象をモデル化しています。

水蒸気爆発のシミュレーションで格納容器破損確率を評価するためには、JASMINEを確率論的な手法の中で使用する必要があります。計算の初期・境界条件やモデルに含まれるパラメータを、確率分布を反映したサンプルとして与えて多数の計算を行い、負荷の確率分布を求めます。それを別途評価した格納容器の強度と比較して破損確率を求めるというものです。この方法で評価した格納容器破損確率(爆発発生1回あたり)は0.01〜0.1のオーダー(平均値)となり、従来のリスク評価で用いられていた値に近いものでした。水蒸気爆発による放出の発生頻度は炉心損傷の発生頻度とその後水蒸気爆発に至る確率及び上記の確率を掛け合わせたものになります。

このように、物理過程のシミュレーションと確率論的手法を組合せることで、PSAによるリスク評価結果の根拠をより明快にすると共に、不確かさ要因についても明らかにすることができました。

本研究は、文部科学省からの受託研究「原子力損害賠償制度に関する技術的基礎調査研究」の一部を含みます。