写真6-1 ウラン溶液に添加し、回収した酵母細胞の電子顕微鏡写真(a、b)
図6-15 酵母によるウランの鉱物化機構を模式的に示した図
「酵母」というとワイン、ビール、日本酒そしてパンと即座に答える方は、醸造に詳しいか、その恩恵にあずかっていると推察されます。私たちはウラン等の重元素と微生物との相互作用の機構を解明する研究を行っています。この研究の中でワイン酵母によりウランが鉱物化することを見出し、その機構を突き止めました。ワイン酵母などはワイン醸造後は無用のものですが、天然起源放射性物質(NORM)などに含まれるウランを長期的に安定な鉱物に変換する技術開発に応用できると期待されます。
酵母の細胞表面が反応場となり、溶液中から細胞表面に吸着したウラニウムイオンと酵母細胞内に蓄積されたリン酸塩が出会い、ウラニルリン酸塩鉱物を生成する機構を解明しました。これまで、微生物表面で6価ウランが細胞表面で沈殿することは知られていました。しかし、その機構は解明されていませんでした。本研究では、リン酸を細胞内に蓄積する酵母をウラン溶液に添加する実験を行い、ウラン濃度の変化を調べてウランが酵母に集まることを明らかにしました。酵母を回収して、電子顕微鏡で分析したところ細胞の表面にウランを含む物質が成長していました(写真6-1)。電子線回折や可視光分光分析により成長していたものは「ウラニルリン酸塩鉱物」であることが分かりました。一方、リン酸濃度が低い培地で育てた酵母では細胞表面に鉱物は成長しませんでした。これらの結果は、溶液中に溶けたウラニルイオンが酵母細胞に吸着し、細胞内部から供給されたリン酸と反応してウラニルリン酸塩鉱物を生成したことを示しています(図6-15)。溶液中のウラン濃度、リン酸濃度とpHから、溶液中の化学組成は鉱物ができる条件(飽和)になっていませんでした。このことから、酵母細胞の表面が溶液中とは異なる化学的(局所的な飽和)条件になったと考えられます。
酵母は遺伝子配列が解明されている単細胞真核生物です。今後は、ウランの鉱物化に関与する遺伝子、タンパク質を突き止めるなど、生体分子レベルでのウランの鉱物化の機構を解明したいと考えています。